李斯の上書と儒者への刑罰

 さて、ここから、文書が違います。始皇帝しこうてい本紀ほんぎ李斯りし列伝れつでん刑罰けいばつの程度が違います。


 始皇帝しこうてい本紀ほんぎ意訳いやくをします。



 「しん(私め)はいます。


 史官しかん秦記しんきにあらざるものはみなこれを焼きましょう。博士はくしかんしょくとするところにあらざれば、天下てんかにあえて(『詩經』)、しょ(『書經』)、百家ひゃっかぞうするものがあれば、ことごとくしゅにいたりてこれをまじえ焼きましょう。


 あえて(『詩經』)・しょ(『書經』)を偶語ぐうご(たまたま話す)するものがあれば棄市きし(死刑)しましょう。いにしえで今をそしるものはぞくしましょう(一ぞくほろぼすということ)。のみが知っていたりしてげない(検挙けんきょしない)ものはともにつみおなじくしましょう。れいくだって三十日たって焼かなければ、げい刺青いれずみを入れる)して城旦じょうたん城造しろづくりの労役ろうえき)をさせましょう。


 すてないところのものは、)・やく卜筮ぼくぜい種樹しゅじゅしょであります。もし法令ほうれいまなぶことがあろうとするものは、とさせましょう。」


 この上書じょうしょにつき、せいして(定めて?)おっしゃいました。


である。」



史記しき李斯りし列伝れつでんほうにはこうあります。


しん(私め)はいます。


 もろもろの文學ぶんがく(『詩經』)・しょ(『書經』)・百家ひゃっかゆうする者は、蠲除けんじょして(のぞって)これをすてさせましょう。れいして滿まん三十日にいたってすてないものは、げい刺青いれずみ)して城旦じょうたん城造しろづくりの労役ろうえき)しましょう。すてないところのものは、(医)・やく卜筮ぼくぜい種樹しゅじゅしょであります。もしまなぼうとほっするものがあれば、としましょう。」


 始皇帝しこうていはそのとされ、(『詩經』)・しょ(『書經』)・百家ひゃっか百姓ひゃくせいおろかにするものを收去しゅうきょし、天下てんかをしていにしえで今をとすることをなからしめました。


 調べてみると、李斯りし上書じょうしょに、議論がくわわったのか、李斯りしが主張したのか、きびしい処罰がくわえられているのがわかります。


 ともかく、この命令は大きな波紋を広げました。『史記しき儒林じゅりん列伝れつでんには、



 しん季世きせいすえ)にいたり、(『詩經』)・しょ(『書經』)をき、術士じゅつしこうあなめ)にした。六蓺りくげい六芸りくげい)はこれによって)けた。


 とあります。また


 しんときしょ(『書經』)をく、伏生ふくせい(人名)はこれをかべぞうしておいた。そののち、へい(戦争)がおおいにおこり、伏生ふくせい流亡りゅうぼうしたが、かんさだまり、伏生ふくせいがそのしょもとめたところ、すうへんはなく、ひとり二十九へんをえた。そこでそれらにつきせいのあいだに教えをなした。


 と儒林じゅりん列伝れつでんつたえています。伏生ふくせい伏勝ふくしょう)というひとは、しん博士はくしだったとつたえられるひとで、そのひとかべ經典けいてんかくしている様子がうかがえます。


 このことについては論議があり、『書経』を口授こうじゅくち伝誦でんしょうした)であったり、つたえられた『尚書しょうしょ(書經)』がいたんでいて錯簡さっかん(順番の間違い)があった、というようなことも論じられていますが、当時の様子を生々なまなましくつたえています。


 さて『通鑑つがん』は『史記しき』にない史料しりょういて、この焚書ふんしょを補足しています。


 の人・陳餘ちんよ孔鮒こうふにいって申しました。


しんがまさに先王せんおうせき經籍けいせきか)をほろぼそうとしています。あなたは書籍しょせきしゅです。あやういではございませんか。」


 子魚しぎょ孔鮒こうふ)はおっしゃいました。


われは(しんにとって、か)無用むようがくをなしております。われるものはこれとものみです。しんともにございません。れはどうしてあやういでしょうや。われはまさにこれらをぞうして、そしてこれをもとめるものをちましょう。これをもとめるものがいたれば、このうれいはなくなっているでしょう。」


 孔鮒こうふとは、孔子こうしの八せいまごであるかたでした。


 ここにてくる陳餘ちんよ張耳ちょうじならんで有名だった人物か、また実際の会話か少しわかりません。この文については、出典しゅってんもわからず、判断をえおきます。

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