秦の蒙氏の事績

 さて攻めとった土地に、桂林けいりん南海なんかい象郡しょうぐんの行政区画をおきました。謫徙たくしの民・五十まん人をもって五嶺ごれいまもり、えつ雜処ざっしょさせました。いわゆる謫戍たくじゅ罪人ざいにんをして辺地へんちを守らせる)とのことです。五つのみねについてはここに諸説ありますが、ちゅう訳出やくしゅつをひかえます。



 蒙恬もうてん事績じせきについてもみてみましょう。


 蒙恬もうてん匈奴きょうど斥逐せきついし(しりぞけ、おい)、河南かなんの地をおさめて四十四県としました(行政区画を設けた)。


 長城ちょうじょうを築き、地形によりて、もってけんせいしてさいとしました。臨洮りんとうこして遼東りょうとうにいたり、南北にびることまんでした。ここにおいてを渡り、陽山ようざんりて逶迤いし(直線ではなくうねって)して北へ伸びました。


 (軍隊)を外にあばく(さらす)こと十年、蒙恬もうてんは常に上郡じょうぐんにおりてこれを統治とうちしました。


 上郡じょうぐんという中心にいて、これだけの大事業を遠隔えんかくから指揮したのですから、並々ならぬ人心じんしん掌握しょうあく術をもつ人物というべきかもしれません。


 蒙恬もうてん匈奴きょうどにふるいました。


史記しき』の蒙恬もうてん列伝を見てみます。


 蒙恬もうてんという人は、その先祖はせいの人でした。


 てん大父たいふ(祖父)蒙驁もうごうは、せいよりきてしん昭王しょうおうにつかえました。かん(官職)は上卿じょうけいにいたっています。しん莊襄王そうじょうおうの元年、蒙驁もうごう秦將しんしょうとなり、かんの国をち、成皋せいこう滎陽けいようり、三川さんせん郡を作置さくちしました。莊襄王そうじょうおうの二年、蒙驁もうごうちょうを攻め、三十七城をりました。始皇帝しこうていの三年、蒙驁もうごうかんを攻め、十三城を取りました。五年、蒙驁もうごうを攻め、二十城を取り、東郡とうぐん作置さくちしました。始皇帝しこうていの七年に、蒙驁もうごうしゅっしました。


 昭王しょうおう莊襄王そうじょうおう始皇帝しこうていと三代にわたる、赫赫かくかくたる武勲ぶくんをのこしたといえるでしょう。


 ごうと曰い、てんいました。てんはかつてごくしょし(仕え、書類の関係の仕事か)文學ぶんがくをつかさどりました。


 始皇帝しこうていの二十三年、蒙武もうぶしん將軍しょうぐんとなり、王翦おうせんを攻め、大いにやぶり、項燕こうえんを殺しました。二十四年、蒙武もうぶを攻め、王をとりことしました。


 祖父のだいからの奉公ほうこうで、父も偉大な勲功くんこうてたわけです。


 さて 蒙恬もうてんの弟をといいました。


 始皇帝しこうていの二十六年、 蒙恬もうてん家世かせい(代々の貢献でしょう)に よりて秦將しんしょうたることをえ、せいを攻め、大いにせいやぶり、はいして內史ないしとなりました。


 始皇帝しこうていは若くして即位そくいし、二十六年もの時間をかけて全国を統一しました。それにもう氏も三代にわたってつかえたわけです。


 しんがすでに天下をあわせたので、 蒙恬もうてんをして三十まんしゅうを ひきいて北に戎狄じゅうてきをおわせ、河南かなんをおさめました。長城ちょうじょうを築き、地形により、けんけわしい地形か)やさいとりでか)をもちいせいし、西南の臨洮りんとうおこして、東北は遼東りょうとうにいたりました。ぼう(長さ)はまんびました。ここにを渡り、陽山ようざんにより、逶蛇いた(曲がりくねって)して北にのびました。


 を外にあばくこと十年、上郡じょうぐんにおりました。


 この時、 蒙恬もうてん匈奴きょうどにふるいました。


 始皇帝しこうていははなはだもう氏を尊寵そんちょうし、信任してもう氏をけんとしました。そして蒙毅もうき親近しんきんし、くらい上卿じょうけいにいたり、でれば參乘さんじょう(車に同乗)し、入れば御前ごぜんにありました。


 てんは外の事を任され、は常に內のはかりごとをなし、名は忠信ちゅうしんとされました。そのためにしょ將相しょうそうといえども、あえて彼らとあらそうことはなかったのです。


 かんちょう氏も名族めいぞくでしたが、しんもう氏も名族めいぞくだったといえるでしょう。


 さて三十四年(B.C.二一三)になりました。


 獄吏ごくりちょく(正直)でないものと覆獄ふくごく(何回も裁判する)してしっする(故意に悪いことをすることか)ものを謫治たくちし、長城ちょうじょうきずかせたり、南越なんえつの地におらせました。


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