黔首の實田、録図書と「胡」、賈人の徴発

 始皇帝しこうていの三十一年(B.C.二一六)


 黔首けんしゅをしてみずからでんじつにさせました(検地をしたか?)。


 『史記しき』では、しん始皇帝しこうていの二十六年(始皇帝しこうてい即位そくいとき)に、たみ黔首けんしゅとする(国民こくみん黔首けんしゅぶ)、とあるのですが、その箇所かしょで、『史記しき』のちゅうには、「けんれいであって、くろである。」とあります。くろきん(布)で頭をおおったのではないかといわれています。


 ちなみにしん水徳すいとくであるとするのなら、黒の色をとうとびます。


 さてこの年、黔首けんしゅ国民こくみん)にごと六こくこめ、二よう(ひつじ)が下賜かしされた、と記述があります。


 また『通鑑つがん』は書いていませんが、始皇帝しこうていはおしのびで街にでかけ、盗賊におそわれたこともしるされています。破天荒はてんこう皇帝こうていとも言えるかもしれません。なお犯人には千六百石の褒賞ほうしょうがかけられています。怒ったんでしょうね…。


 さて三十二年(B.C.二一五)になりました


 始皇帝しこうてい碣石けつせきへいき、えんひと盧生ろせいをして羨門せんもん仙門せんもん)を求めさせ、碣石けつせきの門にきざみました。


 城郭をこわし、堤坊を決通けっつう(破壊)させました。


史記しき』の始皇帝しこうてい本紀ほんぎには「城郭を墮壞だかいし(壊し)、川防せんぼう(堤防か)を決通けっつうし、険阻けんそ夷去いきょ(除去)す。」ともあります。平和になったので、城郭をこわし、川のふせぎ(関所せきしょ)をこわし、険阻けんそつうじるようにさせたということかもしれません。


 始皇帝しこうてい北辺ほくへん(北方の国境)をめぐり、上郡じょうぐん経由けいゆしました。盧生ろせいをして海に入りてかえらせました。


 そう上奏じょうそう?)するところの録図書ろくとしょ(予言書か?)によりて通知がありました。


しんほろぼす者はである。」と。


 録図書ろくとしょとは、後世こうせい讖緯しんいしょ(預言書)というもののようです。


 ちゅうで、鄭玄じょうげんもうしています。とは、胡亥こがいのことで、しん二世にせい皇帝こうていである。しん図書としょをみてこれが人名じんめいであることを知らず、かえって北胡ほくこ(北の異民族)にそなえたのだ、と。


 そのように始皇帝しこうていしょをみてすぐさま、「」とは北方の異民族だとしたのでしょうか、動きます。将軍・蒙恬もうてんをして兵・三十萬人をはっし、北のかたに匈奴きょうどたせ、河南かなんを領土としました。


 三十三年(B.C.二一四)になりました。


 もろもろのかつて逋亡ほぼう(逃亡)した人、贅婿ぜいしょ賈人こじんはっして兵とし、南方の土地、南越なんえつ陸梁りくりょう略取りゃくしゅさせました。


 贅婿ぜいしょについては、『史記しき』のちゅうに、「ぜいとは、困窮こんきゅうにおりて子があるものをいう。そのもののうち婦家ふけ(嫁の家)につかせたものを贅壻ぜいしょとする。」とあります。


 『史記しき大宛だいえん列伝れつでんには「天下七科しちかはっしてたくたく流罪るざい人と)し、ほしいいをのせて貳師じし(将軍)にきゅうさせた(補給させた)。」とあるのですが、この七科しちかについて『史記しき』のちゅうは「①に罪があるもの、②亡命ぼうめいした(逃げ出した)もの、③贅壻ぜいしょ(前述)、④賈人こじん(商人か?)、⑤もと市籍しせきが有ったもの、⑥父母に市籍しせきったもの、⑦大父母だいふぼ(祖父母)にせき市籍しせき)がったもの。およそ七科しちか。」としています。


 商人なのでしょうか?この「市籍しせき」というのは?罪人のようにも感じるのですが、正確なことを知りません。


 ここでも贅壻ぜいしょのほかに、賈人こじん徴発ちょうはつされていますが、懲罰ちょうばつ的な意味いみいもあり、その「市籍しせき」への乱暴なあつかいに驚かされます。


 ただこうした「罪人」(なのでしょうか)、贅壻ぜいしょのような困窮こんきゅうした人、あちこちを商人として旅した人は、よし、新しい土地をひらこう、そういう気持ちで南方に向かったのでしょうか。その辺の事情にくわしくないのですが、印象深いところです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る