周の鼎、湘山の大風、そして博浪沙での襲撃

 さて始皇帝しこうていせいからかえり、彭城ほうじょうをすぎました。齋戒さいかいして禱祠とうしし(いのまつり)、しゅうかなえ泗水しすいからいだそうとしました。


 千人をしてみずぼっしてこれを求めさせましたが、えませんでした。


 この時代に海にいでさせることといい、泗水しすいに千人をもぐらせてかなえ(大きな祭具、ある程度の大きさのものではあったでしょうか)を求めさせるといい、思いきったことかもしれません。当時がしのばれます。


 そして西南にいって淮水わいすいを渡り、衡山こうざん南郡なんぐんにゆきました。荊州けいしゅうと呼ばれる地域だったようです。


 こうかんで湘山しょうざん(「ほこら」か)にいたりました。(この、「ほこら」は)青草湖せいそうこというみずうみのほとり、青草山せいそうさんというところに、しゅん(古代の聖帝せいていの一人、南方でくなったと言われる)の二人の(きさき)をまつったもののようです。


 ここで大風おおかぜにあって、(川を)渡ることができないほどでした。


 じょう始皇帝しこうてい)は博士はかせうておっしゃいました。


湘君しょうくん湘山しょうざんかみ)はなんかみであるか?」


 こたえて申し上げました。


「これを聞いております。ぎょう(古代の聖帝せいていの一人、しゅんの先代のてい)のむすめで、しゅんの妻であるものたちです。ここにほうむられました。」


 始皇帝しこうていおおいにいかり、刑徒けいと囚人しゅうじん)三千人にみな湘山しょうざんりて、その山をしゃにさせました(しゃとは赤のこと、赤い土の色が見えたか)。


 つい南郡なんぐんより南陽なんよう武關ぶかんを経由して咸陽かんように帰りました。


 後にこの地方、の地域からしんたおそうとする英雄たちが出ましたが、その土地で始皇帝しこうてい大風おおかぜにあったことといい、またぎょうの娘でしゅんの妻である神にかかわる山(湘山しょうざん、有名な山だったと考えられます)を丸裸まるはだかにしてしまったことといい、よくその始皇帝の人柄・事績があらわれているかもしれません。


 さて、始皇帝しこうてい秦王しんおうせい)の二十九年(B.C.二一八)になりました。


 始皇帝しこうていは東にあそび(旅行し)、陽武ようぶ博浪沙はくろうさ博狼沙はくろうさとも書く)というところで張良ちょうりょうという人物の襲撃にあいました。


史記しき』と『漢書かんじょ』をみてみます。


 張良ちょうりょうという人は、そのさきかんの人でありました。大父たいふ(祖父)の開地かいちは、かん昭侯しょうこう宣惠王せんけいおう襄哀王じょうあいおうしょうとなりました。父のへいは、釐王きおう悼惠王とうけいおうしょうとなりました。


 五代ごだい(王が5世代続いた)にわたってかんしょうをつとめたことから、かん皇族こうぞくであったのではないかとのせつを『史記しき』のちゅうは引いています。


 悼惠王とうけいおうの二十三年、父のへいしゅっしました(くなりました)。父がしゅっしてからへること二十歲にして、しんかんほろぼしました。張良ちょうりょうとしわかく、まだかん宦事かんじつかえて)していませんでした。


 かんが破滅し、りょう家僮かどう(家臣などでしょう)は三百人おりましたが、弟が死んでもほうむらないで、ことごとくこれらの家財かざいで、かく秦王しんおうさせ、かんのためにあだむくいようとしました。大父たいふ(祖父)、父が五世のあいだかんしょうであったためでした。


 りょうれい(礼)を淮陽わいように学びました。のち東にいき倉海君そうかいくんというものにまみえ、力士りきし(力の強い勇士)をえました。


 倉海そうかいというのは東の夷狄いてきのことではないかという説がありますが、ともかくその力士りきし並外なみはずれたちからの持ち主だったようです。


 てつ(鉄)ついの重さが百二十斤あるものをつくらせました。


 しん皇帝こうてい東游とうゆう(東方を旅行)するにあたり、りょうかく力士りきし)としん皇帝こうてい博浪沙はくろうさの中に狙擊そげきしました。てつ(鉄)ついげたのでしょう、しかしあやまって副車ふくしゃうしろの車という)にあたりました。


 しん皇帝こうていおおいにいかり、おおいに天下を捜索し、ぞくを求めることたいへんきゅうでした。それは張良ちょうりょうのためでした。


 りょうはそこで名と姓をかえ、にげて下邳かひにかくれました。


 『通鑑つがん』は、始皇帝しこうていおどろき、犯人を求めましたが、えることができなかった、天下に大いに捜索させること十日であった、としています。


 しかし始皇帝は旅を続けます。


 始皇は遂に之罘山しふさんに登り、(事績をか?)石にきざみました。めぐりて、琅邪ろうやへゆき、上黨じょうとうからしんへ入りました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る