始皇帝、五行の徳を選ぶ ー郡県制の成立と併せてー

 さてかつて、せい威王いおう宣王せんおうとき鄒衍すうえん五德ごとくうん(めぐりか?)が終始しゅうしすることについて論著ろんちょしました。


 なぜしんみずとくかについて、五行ごぎょう根本的こんぽんてきな考え方をちゅういています。


 「鄒衍すうえんしゅう火德かとく(火の徳)をえたとしました。おそらく『王屋おうおく山にながれる』という言葉をしゅう受命じゅめい王朝おうちょうてんから命令をけたしるし)としたのでしょう。」


 とあります。しゅう武王ぶおういん紂王ちゅうおうったとき王屋おうおくさんのところでながあかからすになることがあった、という故事こじがあるようです。


ふくいろしゅうあかをとうとんだため(しゅうとくとした)でしょう。」


 鄒衍すうえんせつについて終始しゅうし(終わりと始まり、循環じゅんかん)をかんがえると、しんは(五行ごぎょうのうち)つちこうとする(つちしょうじるから)となります。


 しかしいま始皇帝しこうていみずつ、とし、みずからをみずとしてこうとしました。「五勝ごしょう」という考え方です。かんはじめもつちこうとしましたが、おもうにこれもまた(すうえんせつとする(みずつちつから)ものだと考えられます。


 またこのような話があります。


 しん始皇帝しこうていがすでに即位そくいしたところ、あるものが申しました。


黃帝こうてい土徳どとくをえたので、黃龍こうりゅう地螾ちいんがあらわれた。


 木徳もくとくをえたので、青龍せいりゅうこう(都市の近く、近郊)にとどまり、草木くさき鬯茂ちょうもした。


 いん金徳きんとくをえて、ぎんやまからあふれでた。


 しゅう火徳かとくをえたので、赤烏せきう(赤いからす)のがあった。


 いましんしゅうにかわるにあたり、水徳すいとくときである。むかし文公ぶんこうりょう黒龍こくりゅうをえた、これはしん水徳すいとく瑞応ずいおうである。」


 そのようなことを申したので、ここにしんかわをあらため「徳水とくすい」といい、ふゆの十月を年首ねんしゅ(年のはじめ)とし、いろは黒をとうとび、は六を基準きじゅん)とし、おと(おん)は大呂たいりょをとうとび、こと(政治)をすべるのにはほうをとうとびました。


 瑞祥ずいしょうによって、五行ごぎょうとくめた、ということです。当時とうじひと信仰しんこうですが、印象いんしょう深いところです。


 なお、かん高祖こうそ劉邦りゅうほう白帝はくていである白蛇はくだを切って、赤帝せきてい名乗なのることとなり、あか、つまり火徳かとくと考えられることがあるようです。


 五行ごぎょうによっては、さまざまな影響がでています、この五行ごぎょうというものはあなどれないものと考えられます。


 またとししゅはじめについては胡三省こさんせいちゅう補足ほそくがあります。


 深入ふかいりしませんが、十月にとしのはじめをあらためた、ということです。



 さて続きを見ます。


 丞相じょうしょうわん王綰おうわん)が申しました


えんせいけい)のは遠く、そのためにおうかなければ、そのためにそれらの国々くにぐにしずめることはできません。いますに、諸子しょし皇子おうじたち)を(諸王しょおうに)てんことを。」


 しかし始皇帝しこうていはそのくだしました。


 廷尉ていい李斯りし)が申し上げました。


しゅう文王ぶんおう武王ぶおうほうずるところの子弟してい同姓どうせいは、はなはだおおかったものの、しかるにのちぞく親族しんぞく)は疏遠そえんになって、あい攻撃すること仇讎きゅうしゅうのごとくで、しゅう天子てんしも禁止することができませんでした。


 今、海内かいだい陛下へいか神霊しんれいにより、一統いっとうしてみなぐんけんとし、諸子しょし諸皇子しょおうじ)・功臣こうしんおおやけ賦税ふぜいおもくこれらを賞賜しょうしするならば、充分じゅうぶんせいしやすいのです。


 天下てんかことなる意思いしがないということは、安寧あんねいじゅつにございます。諸侯しょこうくことは便べんあることにはございません。」


 そこで始皇帝しこうていはおっしゃいました。


天下てんかはともに戦闘せんとうくるしみやすんでいなかった。こうおうがあったからだ。宗廟そうびょうにより、天下てんかははじめてさだまった。またいくつもくにてれば、これはへいたたかい)をてることになる。その寧息ねいそくもとめるのは、なんとむずかしいことではないだろうか!廷尉ていいである。」


 そこで天下てんかけて三十六ぐんとし、ぐんにはしゅかん(という役人)をきました。


 しんはここに郡県ぐんけんせいりました。ここに運命うんめい歯車はぐるままわります。その行方ゆくえ見守みまもりたいと思います。

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