秦王・政、始皇帝と号す ー司馬光の史評とー

 ここに、秦王しんおうせいひきいたしん国は、全国をその配下はいかにおさめます。巨大な帝国の誕生です。司馬光しばこうがこれをどういっているか、『資治通鑑しじつがん』がせている史評しひょう(歴史評論)をみてみましょう。


しんこうは申し上げます。


 合従がっしょう連衡れんこうおう)のせつ反複はんぷく(変化)すること百端ひゃくたんがあるとはいえ、そうではあるものの合従がっしょう大要たいよう(だいたい)は、六国(かんちょうせいえん)のであったのです。


 むかし先王せんおう周王しゅうおう)は、まんもの国をたてました。諸侯しょこうしたしみ、諸侯しょこう朝聘ちょうへいさせて、そしてたがいにじわり、饗宴きょうえんをさせました。そしてたがいに楽しみ、かいめいをさせて、そしてたがいに関係をむすびました。他意たいがあったのではございません、諸侯しょこうこころおなじくさせ、ちからをあわせ、家・国をたもたせたのです。


 さきに六国を信義しんぎでたがいにしたしませれば、しん強暴きょうぼうであったとしても、これらの諸侯しょこう・六国をほろぼすことができましたでしょうか!


 そもそも三晉さんしんしんからわかかれたかんちょうの三つの国)は、せいの国の藩蔽はんぺい、つまりまもかきでございました。せいとは、三晉さんしん根柢こんてい、つまり基盤きばんにございました。形勢けいせいはそれぞれがたがいにたすけ、表裏ひょうりでそれぞれがたがいによりあうものでした。


 そのためにしん三晉さんしんせいめさせ、みずからその基盤きばんたせ、せい三晉さんしんめさせ、みずからそのまもかき撤去てっきょさせたのです。


 どうしてその藩蔽はんぺいまもかきてっして(取り払って)そしてとう、つまりしんびたのでしょうか。


 いうではありませんか、「とう盗人ぬすっとしんのこと)はまさにわれあいしてめぬはずだ」と、どうして間違まちがってはいないでしょうか!(間違っていたのです!)」


 これは後世こうせいの、すべてがわかったうえでの発言はつげんですが、おもんじるべきかもしれません。


 さて天下を統一とういつし、丞相じょうしょう王綰おうわん御史大夫ぎょしたいふ馮劫ふうこう廷尉ていい李斯りしらがそろって申しました。


むかし五帝ごていほう・千で、そのそと侯服こうふく夷服いふく(それぞれ地域の名)と諸侯しょこうはあるいはちょうしあるいはそのようにせず、天子てんしせいすることができませんでした。


 いま陛下へいかおうのこと、きざはし(階段か)のうえにおり臣下しんかしたにおるからいう)は義兵ぎへいおこされ、残賊ざんぞくちゅうされ、天下を平定へいていされました。海內かいだい(天下)は郡・県となり、法令はそのために一統いっとうされました。上古じょうこより以来いらいいまだなかったことであり、五帝ごていのおよばないところにございます。


 しんつつしんで博士はかせしましたところ申しますに、『いにしえは点皇てんこうあり、地皇ちこうあり、泰皇たいこうあり。泰皇たいこうもっととうといものとする。』とのことにございます。


 しんをおそれず尊号そんごうのぼしますに、おうを『泰皇たいこう』とさせていただきます。めいを『せい』とし、れいを『しょう』とし、天子てんしみずかしょうされますに『ちん』とお申しください。」


 おうがおっしゃるには


「『たい』をり、『こう』をつけ、上古じょうこの『てい』の位号いごうをとって、ごうして『皇帝こうてい』という。ほかのようにせよ。」


 とのことでした。


 そしてせいしておっしゃいました。


である。」



 莊襄そうじょうおう追尊ついそんして太上皇たいじょうこうとされました。


 自分の父も、わせて尊号そんごう名乗なのるようになったわけです。


 せいしておっしゃるに


ちんが聞くには、太古たいこごうはあるがおくりなはなかった、中古ちゅうこにはごうがあって、しておこないをもっておくりなとした。


 このようであったが、ちち行積こうせきし、しんきみ行積こうせきする、はなはだわれがないものである。ちんはこれを取らない。今より以来、おくりなほうをのぞく。


 ちん始皇帝しこうていとなる。後世こうせい計数けいすうはかかず)をもって、二世にせい三世さんせい、とし、萬世ばんせいいたらせ、無窮むきゅうにつたえよ。」


 壮大そうだい意気いきです。そして、臣下しんかに自分の批判はゆるさない、とおくりなの制度を廃止はいしさせています。これは始皇帝しこうてい意志いしだったかもしれません。

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