知ることのなかった「君」のコーン茶の、素朴な味わい。

詩集「優しい人の見つけ方」収録の、「コーン茶」。緑茶でも麦茶でもなく、コーン茶です。
コーン茶が「いつも冷蔵庫に入っていた」頃、ふたりは一緒に暮らしていたのでしょう。でもいま「僕」は「一人になって」、「君」はもういない。ふたりで暮らした日々のなかで、相手のことはすっかりわかった気になっていたけれど、「君」がいなくなったいま、飲みたいと思ったことのないコーン茶の味が今さらのように気になりだす。

飲んで味を確かめてしまえば、また「君」を理解した気になってしまう。だけどそんなことはしたくないと「僕」は思っていて、知らなかった部分を、知らないまま、受けいれようとしているようです。まるで、ふたりの暮らしを出ていくことを選んだ「君」の決断を尊重するように。
それは、「君」には届かない、自分だけで片を付けるための、ひとつの誠実さのようなもの。こういう複雑で繊細な心の機微は誰にでも心当たりがあるけれど、こんなふうにていねいに書くのは、案外難しいものだと思います。しんみりとした静けさの漂う、いい詩です。

(「自由に補助線を引いて愉しむ、詩の特集」4選/文=大崎清夏)

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