第79話 決着……


「おのれ! 我を愚弄ぐろうするかっ!? ならば死ねいっ!!」


 私の挑発にヤツは乗ってきた。チャンスはこれ一回限りだ。私はカオリと顔を見合わせて頷きあう。

 そして……


 ヤツの攻撃は思ったとおり、陽の気だ。その陽の気をカオリが陰の気で押さえ込む。


「ウッ、クッ、タケフミ、思ったよりも圧が強いわ、長くは持たないかも……」


 カオリの言葉に私は返事をする。


「大丈夫だ、カオリ。私の力を受け入れてくれ! (いや、正確には私の力ではなくエロフ師匠の力だがな…… それは内緒だ……)」


 私はカオリに師匠から受け継いだ陰の気を注ぐ。その力は魔王であったカオリをしのぐ陰の気だ。


「キャアーッ! 何よ、コレ!! 強すぎでしょうっ!!」


 師匠の陰の気を注ぐとカオリがそう悲鳴を上げた。アレ? まだ師匠から受け継いだ陰の気が半分以上残ってるんだけど……

 ヤツの陽の気は全て消滅していた。


「バッ! バカなっ!! 我が長年かけて集めた陽の気を一体どうやって!!」


 息も絶え絶えになりながらもそう聞いてくるヤツに私は言った。


「お前が集めた陽の気は長年というが、たかだか1,000年ほどだろう? 対してコチラの用意した陰の気は5,000年を超えて集められたものだ。長年というならせめて2000年を超えて集めるべきだったな」


 師匠はエターナルエロフだ。異世界では10,000年を生きてきていた。神ではないが、妖人種であった師匠が集めた陰の気は、男神といえども耐えられないほどのレベルである。

 そう、ローレンが神託によって私をエロフ師匠の元に連れていったのは、師匠の集めた陰の気コレを私に受け継がせる為だったのだ。

 そして、その受け継いだ陰の気は私では上手く扱えない。何故ならば私は男性だからだ。女性でなければ扱えない陰の気を扱って貰う為に、カオリにも来て貰ったのだ。

 

「グックッ…… だが、勇者タケフミよ、貴様もあの創世神には恨みがあろう…… どうじゃ、今からでも遅くはない、我と手を組みっ!」


「断るっ!!」


 ヤツにみなまで言わせず私は断る。


「なっ! 何故じゃ!! 何故、そこまでアヤツを庇うのじゃっ!!」


 ヤツの問いに私は静かに答えた。


「それはな、金精よ…… 私は既に満たされているからだよ。伴侶にも出会えた。父母に会えなかった事は確かに残念だったが、その父母も既に元気に暮らしている事も分かった…… それが彼なりの償いであることもな…… 

元々はイレギュラーだったんだ。金精よ。お前があの異世界に誕生した事を含めてな…… 本来であればお前は塞ノ神を乗っ取る必要など無かったのだよ。塞ノ神自身がやがて金精となるのは当たり前の事だったのだ。それが、宇宙でとあるイレギュラーが起こった所為で、狂いが生じたのだ。それを正す為に私は異世界に拉致された。金精よ、お前が乗っ取った時に塞ノ神はこう言った筈だ。『日ノ本の民を厄災から守ってやってくれ』と…… そして、方法は褒められたものでは無いが、確かにお前はその約定を守った。それはイレギュラーで産まれたお前にも、正しい時間軸の金精としての意識が多少なりともあったからだ…… だから、私は言おう。金精よ、復讐などの愚かな事は止めるのだ。そして、またこの日本の神として、その力を正しく使うのだ。思い出せ、金精! お前を崇拝して、信じて、子宝や五穀豊穣を願った民たちの真っ直ぐな心を!!」


 私の言葉にガックリと項垂れる金精神。そして……


「ウッ、ウオオーーン!! わ、我は間違っていたのか? 我は! 我は! ウオオーーン!!」


 泣き崩れてその姿は丸い珠になった。


荒御魂あらみたまとなったか…… 金精神よ、コレからの日本を、いや、世界を見守ってほしい……」


 私は荒御魂あらみたまとなった金精神を手に持ち、月に転移させた。 


 こうして、すべての問題は終わった。


 終わってなかった……


「ねぇ〜、タケフミ、しよ!」


 おい、どうしたんだ? カオリよ?


 顔をトローンとさせ上気した頬で私に迫るカオリ。


「待て待て、カオリ、今、【状態異常回復】をかけるからな!」


 私は慌ててカオリに【状態異常回復】をかける。しかし……


『オーホッホッホッ! その程度の魔法で私の陰の気が体から抜ける筈がないでしょう? さあ、諦めてこの富士山頂で交わっちゃいなさい!! 師匠からのサプライズよ!!』


 あなたの仕業かーっ!! エロフ師匠!!


「ねぇー、タケフミ、は・や・くー! もう脱いじゃお、エイッ!」


「わあーっ、待て待て、カオリ! 待つんだ! ココじゃダメだ! 取り敢えず私の自宅に、転移!!」


 しかし、自宅にはナガイキくん夫婦が居た……


「あ、あの鴉社長、その…… 失礼しましたーっ!!」


 私と私に半裸で抱きつくカオリを見たナガイキくん夫婦が私の家から飛び出す。


「まっ、待て、待ってくれっ! ご、誤解だっ! ナガイキくん、待ってくれーっ!!」


 私の声が虚しく自宅に響いたのだった……  



(終)



長らくお付合いいただき有難う御座いました。

これにて完結とさせていただきます。

m(_ _)m

  

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