第78話 今度こそ、最終決戦!

 ナミちゃんと付き合える事になったローレンはウキウキでイギリスへと戻っていった。その翌日、ナガイキくんから連絡があり、自宅近くの喫茶店で会う事になった。


「その節はお世話になりました。あの時のお話はまだ大丈夫なんでしょうか?」


 少し不安そうな顔で私を見るナガイキくんとその奥様。奥様の腕の中には生後半年ぐらいのお子さんが抱かれている。私はニッコリと微笑んで言った。


「勿論だよ。決心してくれて嬉しいよ。住む場所は決まったのかい? まだなら一緒に不動産屋に行こう。先ずは衣食住を確保しなくちゃね」


 私がそう言うと2人ともホッとした顔をする。


「有難うございます。部屋を既に引き払ってきていて、レンタカーでトラックを借りてそれに荷物を満載してあるので……」


 中々の無茶な行動ぶりだが、そこまで決心してくれたなら力にならなければな。私はナガイキくんと奥様に一緒に来てくれといい、先ずはタカフミさんが事務所を選んだ時に利用したという不動産屋にやって来た。


「急で申し訳ないんだが、この2人が住める2LDKぐらいで家賃もそれほど高くないアパートに空きはないかな?」


 私はスターフェスの名前を出してそう聞いてみる。


「ちょうど良い物件がございますよ。事務所から徒歩8分ほどの場所になります」


 そう言う不動産屋にその物件に案内してもらい、私の名前で契約を結んだ。


「あ、あの鴉さん、それじゃ家賃請求が鴉さんに行く事になります……」


 ナガイキくんがそう言うので、私は笑って


「福利厚生の一環だよ。家賃の半分は渡す賃金から引かせて貰うよ。さあ、トラックを取ってきて、荷物を運び込んでしまおう。電気、ガス、水道は直ぐに使えるようにしてくれるそうだから」


 そう言って納得させた。そして、奥様には部屋でゆっくりとしてもらい、ナガイキくんと私で荷物を部屋に運び込んだ。私は身体強化をナガイキくんにかけたので、思ったよりも早く運び込む事ができた。そして、奥様の居ない場所でナガイキくんに確認してみた。


「奥様には能力の事は言ってあるのかな?」


「はい、妻には隠し事はしてません。今回の事も妻には話してます。直ぐに賛成してくれて、荷物をまとめてきました」


 うん、コレで少しは私も動けるようになるな。私はそれからナガイキくんのアパートと私の自宅を転移陣で繋いだ。緊急時にはココに逃げ込むようにと伝える。更に給与、休日などの面での話をして、納得してくれたので契約書を明日にでも交わす事にした。


 そして、その日はそれで別れた。私は夜に弥生の家に行き、タカフミさんと弥生に人を雇う事にした事を伝えると、


「それならタケフミさん、会社組織にしますか? 直ぐには無理ですけど、僕の方で手続きを進めておきますよ。その方が税金の面でも得になりますし、そうしましょう」


 と教えて貰ったので、甘える事にした。


「いつも、そういった関係の事をお願いしてばかりですみません」


 私がタカフミさんにそう言うと、弥生が、


「ううん、タケにいには返せないぐらいのお世話を受けたから気にしなくても良いのよ」


 と言ってくれた。そこで、私は明日にでも契約書を交わすつもりだったけど、待った方がいいですかとタカフミさんに確認すると、


「現時点での契約書という事にして、契約書の最後に会社組織になった時に新たに交わすと一文を入れておけば良いと思いますよ」


 とアドバイスを貰ったので、そのとおりに文書を作成した。

 翌日、ナガイキくんのアパートに行き、事情を説明して、契約書を交した。そして、私はナガイキくんに瞑想法と体術について訓練をする。

 コレも契約書内に入っているからだ。瞑想法については奥様にもやってもらった。魔力を感じられるようになってもらわないと、転移陣を利用できないからね。

 幸いにして、今のところ緊急の仕事依頼は来てないとの事だったので、私はナガイキくんの訓練に集中出来た。

 訓練を始めて3日、ナガイキくんは【生活魔法】と【隠密】、【身体強化】を使えるようになった。

 そして、奥様はというと【回復魔法】との相性が良かったようで、骨折程度ならば回復出来るレベルになっていた。


 そして、4日目にそれはやって来た。


 ムッ! ヤツからの神気か! 私に向かって飛ばしてきたという事はヤツの準備が出来たという事だな。私はマインでナガイキくんに今日の訓練は中止だと伝える。そして、私の自宅に家族と共に居るようにとも伝えた。弥生の家の結界も強化し、スターフェス事務所、レッツラゴー事務所、タケシやマサシ、その他、私と関わりがある全てに結界を張った。そして、カオリと意志疎通する。


『遂にヤツから神気が飛んできたよ! 行けるか?』


『勿論よ、タケフミ。今は自宅? 直ぐに行くわ』


 と聞こえたと思ったら目の前にカオリが居た。本当に心臓に悪い。


「ビックリしたよ、いきなり目の前にこんな美人が現れたら抱きしめたくなるだろう?」


 私はそう言いながらカオリを抱きしめた。


「フフフ、有難う、タケフミ。でも全て終わった後でね」


 私とカオリはもうお互いを呼びすてで呼び合う事にしてある。その方が連携も上手く行くからだ。


「よし、それじゃサッサと終わらせてしまおうか」


 私はそう言うとヤツが神気を私に向かって飛ばしてきた場所にカオリを連れて転移した。


「フンッ! 女子おなごまで連れて来るとは、勇者の称号が泣くぞ!!」


 現れた私とカオリを見てそう叫ぶヤツに私は言ってやる。


「生憎と私の称号に【勇者】の文字は無いのでな。だから、泣くことも無いな」


「そうよ! タケフミの称号は【勇者】なんかじゃないわ!! 【魔王を堕とした男】よ!!」


 いや、カオリよ。それは言ってしまうと締まらないだろう?……


「フンッ、その堕とされた魔王が何を言うかっ!! まあ良い、今の我は気分が良いから2人まとめて相手をしてやるわっ!! かかってくるが良いっ!!」


 神気を膨れ上がらせてヤツが私とカオリを誘う。けれども私たちはその手には乗らない。


「フッ! 神と崇められている存在が私たちを恐れているのか? そっちから掛かってくると良い。私たちは逃げも隠れもしないぞっ!!」


「おのれ! 我を愚弄ぐろうするかっ!? ならば死ねいっ!!」


 私の挑発にヤツは乗ってきた。チャンスはこれ一回限りだ。私はカオリと顔を見合わせて頷きあう。

 そして……


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