最初で最後の君の嘘。
鳴瀬楓
第1話
「嘘だよ」
俺は嘘が好きだ。
この一言ですべてをなかったことにできる魔法のような言葉だ。
「オッス牧島!今日もボーっとしてんな!」
「お前の第一声は毎回それだな、俊」
校舎の屋上で一人座ってた俺は声をかけられた方向に顔を向けるとそこには大柄で目つきの悪い男が立っていた。
声をかけてきたのは三上 俊、俺の友達だ。
「だってお前いっつもボーっとしてるんだもん、これでも心配してるんだぜ? でも今日は一段とボーっとしてるな、なんとなく顔色も悪い気が……」
「なるほど、これはお前なりの心配なんだな、でも俺は正常だぜ?でも言われてみれば体調悪いような?」
俺は口を手で押さえ、少し吐き気があるような動きをする。
「お、おい大丈夫か?!」
俊は少し心配そうな顔をし背中を撫でてくれる。
見た目でよく勘違いされるが、こいつは優しいやつだ。
「なんてな、嘘だよ」
本当は嘘なんかじゃない、すごく気持ち悪い、今にも吐きそうだ。
吐き気の原因は自分が一番わかっている、今日、俺は幼稚園から関係が続いている幼馴染、春咲 ひより、に気持ちを伝えようと思っている。
気持ちといっても負の感情をぶつけるわけではない、その逆俺はひよりにほの字なのだ。
「なーんだまた牧島お得意の嘘かよ」
「ははっお前は本当に騙されやすいな、将来詐欺には気をつけろよ」
俺は軽く笑い冗談半分でそんなことを言う。
「こんにゃろ、おれは大丈……!」
「はいはい、わかったわかった、ほら授業始まるから教室戻るぞ~」
俺は俊の言葉を遮り歩き出す。
教室に帰ってからも俺はボーっとしていた、俊が言ってたいつもボーっとしてるというのも案外あってるのかもしれない。
先生の授業も全然頭に入ってこない、頭にあるのはひよりのことだけだ、夏の爽やか風が吹く中、ひよりの淡いピンク色の長い髪を風で揺らし、くだらない話で笑いながら一緒に帰る、そんなことを考えてしまう。
そんなことを考えてるとあっという間に授業が終わり下校のチャイムが校舎中に響き渡る。
チャイムを聞くと、我に返り、教室にある時計に目をやると、時計の針は17時55分をさしていいた。
俺の思考は一瞬止まる、頭の中には”遅刻”この二文字が浮かんでくる。
急がないと遅刻してしまうと思い、俺は急いで廊下に飛び出し、人が少なくなった廊下を走り抜ける。
校門前まで来るとそこには、ピンク色の髪をなびかせて空を見上げている少女がいたそう、ひよりだ。
「ごめん、ひより遅れた!」
俺が声をかけるとひよりは振り返り眉間にしわを寄せてこちらを見てくる。
「もう遅いですよ!!悟君!!」
ごめんごめん、と手を合わせて顔の前にもって謝るとひよりはすんなり許してくれる。
「もう大丈夫ですから、早く帰りましょ?」
ひよりはそう言うと一人で先に歩き出す。
俺は置いて行かれないように小走りでひよりの横に並ぶと緊張感が急に襲ってくる。
俺が住むマンションまでおよそ15分、ひよりも同じマンションなので帰宅時間は一緒だ。
どうっやて話を切り出そうか考えていると「ねぇ悟君」よこからそんな呼びかけが聞こえてくる。
「どうしたひより」
「あ、あの!!今日いつもの公園に寄りませんか……?」
「いつものって種が原公園か?」
俺が問い返すとひよりは無言でうなずき少し目線を外す。
「全然いいけどなんかあったのか?」
「特にこれといったことはないですけど、きょ、今日夕日がきれいなので……」
種が原公園は何か悩みや相談事があるときによく行く公園だ、本当にそれだけの理由なのか?ほかに、何かあるのではないかなど考えていると、もう公園は目と鼻の先に近づいていた。
階段を上り、公園の敷地に入るとそこにはいつもより一段と綺麗な夕日とそれに照らされる町があった。
「おぉ……確かに今日は一段と夕日がきれいだな」
俺がそう言ってもなにも返事がない、あるのは少し気まずい空気だけだ。
「なぁ、ひよ」
「悟君!!」
俺の言葉はひよりの言葉に遮られる。
「ど、どうしたひより」
「悟君こそ……」
数秒の沈黙の後、先に口を開いたのは俺だった。
「なぁ、ひより俺は……」
”好き”単純な言葉が喉を通らない。
言葉が喉を通らない間、ひよりは真剣な眼差しでこちらを見つめてくる、そんなひよりの顔は少し赤い、そんな気がした。
一呼吸整え、その言葉は俺の喉を通過する。
「ひより、好きだ」
俺がこの言葉を言った瞬間、ひよりは目を大きく開きその眼には大粒の涙がたまっていた。
「わ、私も好きです」
ひよりは少しすすり泣きながらそう言う。
「それは本当なんだな?そういう意味で好きなんだな?」
驚きのあまり俺は確認してしまう。
「やっぱり嘘です」
「え……」
「私は牧島 悟君が大好きです!!!」
俺は嘘が好きだ。
その一言で人を喜ばせることができる言葉が。
最初で最後の君の嘘。 鳴瀬楓 @Akairokitune
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