9.風薫る
午前六時四十五分。
今日から、午前七時に登校だ。
千景は、うさぎの飼育係をする。
「ミミ」と「ラヴ」の飼育を美加から、引継いだ。
と云っても、未だに「ミミ」と「ラヴ」の区別は付かない。
美加が不登校になって以来、ずっと用務員さんが、うさぎの世話をしている。
早く、解放してあげないといけない。
彩乃を誘ったが、今日は、登校しないと云った。
まだ、事件のショックを引きずっているのだろう。
ただし、明日からは、必ず登校すると云った。
部活も、夏まで続けると云っている。
だから大丈夫。
あの日。
千景とお父さんは、彩乃を探して、臨海公園前広場へ向かった。
彩乃は、柚葉を殺害した犯人が、葛西の事務所から、逃げた男だと思ったそうだ。
葛西は、その男が事務所を手伝っている。と云っていた。
彩乃は、その男が葛西も殺害したのではないかと思った。
彩乃は、「平野スタジオ」を訪ねた。
平野以外に、思い付かなかった。
平野は、臨海公園前広場へ出掛ける直前だった。
彩乃は、平野に付いて広場へ向かった。
平野に、葛西の事務所を手伝っている男の事を尋ねた。
平野は、その男を弘田だ。と教えた。
彩乃は、柚葉に、うさぎを手配したのが、弘田だと思う。と話した。
実は、葛西から柚葉に、うさぎが届いている。と連絡があったそうだ。
柚葉は、翌日受け取りに行く。と答えたそうだ。
ところが、その夜、彩乃は柚葉に呼び出された。
柚葉は、新しい、うさぎを手に入れていた。
柚葉は、うさぎの手配をした弘田から、呼び出されたのだ。と思った。
うさぎは、柚葉の自宅で飼われていた。
弘田が柚葉に、うさぎを渡したその日、葛西は、殺された。
葛西の居所を知る事は、その頃、容易ではなかった。
だから、弘田が葛西を殺害した犯人だと思った。
柚葉も、同じように気付いたのだろう。
それで、柚葉も弘田に殺害された。
と彩乃は平野に喋った。
突然、襲われた。
彩乃は、突き飛ばされた。
地面に倒れた。
千景は、臨海公園で、彩乃が平野に襲われてるのを見付けた。
彩乃が逃げる。
平野が追う。
木の陰で見えない。
平野の腕が彩乃の首に巻かれている。
お父さんが走る。
千景は林刑事さんに電話を掛けた。
「彩乃と平野、発見。臨海公園」
スマホが繋がると同時に怒鳴った。
林刑事さんと三好刑事さんも、平野を追っていた。
千景は走った。
お父さんが平野に突進した。
千景は彩乃を庇う。
お父さんが、平野と対峙。
その時、林刑事が駆けつけた。
平野は、逮捕された。
臨海公園で、葛西が殺害された日。
平野は、葛西と会っていた。
葛西は、柚葉を次のイベントでメインにすると云う。
それで、葛西の方で柚葉をレッスンすると云われた。
柚葉は、目立とうとする余り、好感を持たれない。
だから、柚葉を葛西が引き受けると云う事を不思議に思った。
葛西は、柚葉が大型新人のアイドル候補を連れて来たと云った。
平野は、葛西の事務所を支援しているのが、「津和木」だと知っていた。
平野の音楽教室は、新型コロナ以来、厳しい経営が続いていた。
ワクチンの普及で、何とか持ち直した。
そこで、一気に挽回を目論んだ。
平野は、業態を葛西と同じように、イベント会社へシフトしようとしていた。
それで、以前から葛西に「平野スタジオ」の支援を依頼していた。
だが、良い返事はもらえていない。
平野は、「津和木」の支援を葛西から奪う計画を立てた。
そんな時、平野は葛西から、うさぎの手配を押し付けられた。
平野は、葛西を臨海公園へ誘き出した。
平野は草叢に、うさぎを隠した。
うさぎが、逃げたから一緒に探してくれと云った。
葛西がやって来た。
葛西が草叢に屈んで、うさぎを捕まえようとした。
平野は、葛西の背後に近付き、首を絞めて殺した。
平野は、スタジオに戻って、柚葉に連絡を入れた。
平野が柚葉に、うさぎを渡した。
「津和木」の彩乃との窓口を平野スタジオへ、変更するように画策した。
平野は、スタジオに通っている柚葉をその計画に誘い込もうとした。
柚葉は、翌日になって、葛西が殺害された事を知った。
柚葉は、葛西の居所を知らない。
翌日、指定する場所で、うさぎを受け取る事になっていた。
それで、平野は、柚葉に葛西の殺害を疑われた。
平野は柚葉も殺害した。
更に、彩乃まで殺害しようとした。
彩乃が、大型新人になる可能性に、気付かなかった。
平野は、音楽の指導者としては優秀だった。
しかし、才能の発掘も、経営も素人だった。
勿論、殺人は論外だ。
平野が自供し、二つの殺人事件は解決した。
ただ、柚葉が「ラブ」の死骸を教室に遺棄した犯人なのか。
柚葉が何故、うさぎを忘れ物と云って、美加に渡そうとしたのか。
判らないままだ。
「津和木」の不正取引は、これから裁判によって明らかになるだろう。
まだまだ、時間がかかるそうだ。
しかし、千景には不正取引と云われても、よく分からない。
とにかく、皆と学校で会えるようになって、ホッとしている。
ずっとオンライン授業だった。
千景は、今日から自転車で登校している。
今日は、学校の東側の校門だけ開いている。
正門も、荷物の搬入口も閉まっている。
東側の校門の前には、まだ、何人か報道関係者が取材しているそうだ。
今日から、対面授業になる。
午前八時三十分から、体育館で全校朝会が開かれる。
久しぶりだ。
自転車のペダルを力一杯踏む。
途端。
エンジン音。
いつもの国道へ抜ける通学路の交差点。
後ろから、車のエンジン音が近付いてくる。
自転車を降りて、空地の方へ車を避けた。
今は、もう温かい。
自転車で走ると、少し汗ばむくらいだ。
縁石を跨いで、空地に立った。
空地で車をやり過ごした。
汗ばんだ顔に、微風が吹いた。
風薫る季節。
ちょうど今だ。
ふと、空地に立って道端を見た。
まだ、背の低い若草が、びっしり、生い茂っている。
あっ。あれは…
見付けた。
飴色に立枯れた、引っ付き虫の草だ。
空地の真ん中辺りにも残っている。
若草の生い茂った間に、細く高く、立ち枯れた引っ付き虫の草だ。
細い枝先へ、疎らに引っ付き虫が残っている。
まだ立ち直ってない彩乃。
いつも、スカートに付いた引っ付き虫を彩乃に、取ってもらっていた。
千景は、自転車を押して歩道まで歩いて行った。
このまま、自転車を押して行こう。
学校まで、もう少しだ。
薫風に栴檀草 真島 タカシ @mashima-t
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