第17話 期限のある魔法
姉さんたちに施したメイクが少しずつ評価を得て、それからわたしの得た技術はどんどん噂に乗って幅を広げることとなった。
最初は、父さんの作った衣装に合わせたカラーの化粧品をおまけとして渡していた。
もちろんわたしの手作りで、何かしらの効果は含んでいた。
最近ではお客さんを見て、それぞれの要望に合ったものを作り上げるよう心がけている。
わたしにとっては新しい発見の連続で、楽しくもあった。
もちろん、魔力を使用することでリスクも高く、疲労感は半端ない。
だからこそ一日に対応できる人数限られていて、今は正体を隠して姉さんたちの信頼できるお客さんの対応しか承っていない。
メイクにかけられた魔法には限度がある。
残念なことにいつも24時を回ったあたりでその効力は切れる。
そのためこのことだけは予めしっかり伝えておく必要があり、それでも構わないと言ってくれる人だけに対応することに決めている。
24時までという壁はどれだけ改良を加えても、未だに乗り越えることができないでいた。
最初は仕立て屋に来てくれたお客さんに感謝を込めて、その人の可能性を最大限に引き出すことができたら、と思っていた。
実際に明るい表情で帰っていくお客さんも増えて気持ちが良かった。
お褒めの言葉をもらえると飛び上がって喜んだ。
小さな規模でも何か人の役に立てていると思えることで満足感が増して幸せな気持ちになれた。
そうして活動を始めて早くも数年。
有り難いことに、その間に話題が話題を呼び、いつの間にかわたしは『ポリンピアの奇跡』と呼ばれるようになり、謎多き人物として認識されるようになった。
正体は隠して行動している。
一度ならぬ二度までも(知る人の知る)大きな事件を起こしているわたしとしては、あまり目立つ訳にはいかない。
そのためもあって、所在不明のわたしの居場所を特定しようと躍起になったり、正体を探ろうとする者まで現れ始めたりもした。
24時になったらメイクとともにその日に対応したお客さんのわたしに対する記憶も曖昧になるよう仕組んでおり、正体を探られている今は、これでよかったなぁと思っている。
ほとんどの場合、素材を活かすメイクを施すよう心がけているのだが、当の本人のわたし自身は完全に別人になりきることで心身ともにメイクアップアーティストになりきれるようになっていた。
お洒落に疎かったアイリーンではなく、お洒落が大好きで自信に満ち溢れた可愛い愛理になりきることで胸を張って自分の新しい可能性に向かって歩くことができる。
「こんな幸せなことはない」
「これからは顔を上げて生きていける」
女性はそう言って満足げに帰っていった。
わたしは自身の正体を隠す一方で、お客さんに対しても語られない限り相手の個人情報は聞かないようにしている。
その日の依頼状況等は全ては姉さんたち任せで話は進められている。
主にどういう人をどんな経緯で紹介してくれたのかと聞くと、今の環境や生活にとても困っていて、信頼の置ける人物を選んでいるのだという。
そのためわたしが対応したあとに彼女たちがどうなったのかは知る由もないのだけど、変に予備知識をもって接することがないから楽である。
一瞬でもメイクの魔法で心が軽くなればいいのに、と心から願いながらわたしは懸命に手を動かす。
「ふう」
今日も思った以上の疲労感が徐々に襲ってきてふぅと息を吐く。
程々にしなくては、と思いつつも、年々疲労感が増す。ずいぶん体力が衰えたものだ。
ズキッと痛む左腕をさすりながら呼吸を整え、わたしは作業場をあとにした。
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