ジャイアントブロッコリー

#365日ショートショート 286

　そのブロッコリーはスカイツリーを倒した。

　突如として東京都墨田区押上1丁目1-2に生えたブロッコリーは、急速に成長した。少し目を離した途端に、あれよあれよと三倍にも膨れ上がっている。また膨れ、また育ち、また巨大となり。墨田区の周辺住民が避難を始めた矢先、スカイツリーの基礎は巨大ブロッコリーにより圧迫され、その電波塔はあっけなく倒壊した。

　世界的なニュースとして報道され、数えきれないヘリが上空を飛んだ。ビル街に生えた巨大ブロッコリー。特撮映画のような奇妙な映像は、瞬く間にMyTubeのトレンドを埋めた。

「皆さんの協力が必要なのです」

　数日後、首相は会見で絞り出すように語った。この映像は全国の小学校の教室に中継されている。学者たちが巨大ブロッコリーを調査したところ、理屈はさっぱり分からないが、子供が食事においてブロッコリーを残す度に成長していることが分かった。ブロッコリーの呪いか、ブロッコリーの怨念か。しかし、もはや原因解明の猶予はない。対策を打たなければ、東京は巨大ブロッコリーに圧し潰されてしまう。

「どうか、そのブロッコリーを食べてください。君たちに日本の未来がかかっています」

　小学生たちの机には、ありとあらゆるブロッコリー料理が配膳されていた。牛肉とブロッコリーのオイスター炒め、ブロッコリーポテト餃子、ブロッコリーのチーズガレット、ブロッコリーとベーコンの炒めご飯……。苦手な子でも食べられるような、工夫を凝らしたメニューの数々。彼らがブロッコリーを食べ、その存在を受け入れれば、きっとあれの成長は止まるはず……。

　一時間後、巨大ブロッコリーは成層圏に達していた。東京は見事に壊滅。日本はその影に覆われ、未来永劫、陽を浴びることはなかった。