第67話 予感⑪
◆
険しい山道だった。
そこここに根が飛び出た足元の悪い道だったが、四人の黒い影は音を立てることもなく、慣れた足取りで山を上がっていく。
ふと、烏丸の前を澱みなく進んでいた男の足が止まった。
男は黒々とした剛毛を金茶の
男の太く豊かな眉が
腰に差した刀に、武骨な手が伸びる。
烏丸の隣で歩を進めていた
肩下で切り揃えられた銀鼠色の髪が揺れて、
「
三芳と呼ばれた男は無言で頷いた。
頭上には半刻程前から雨雲が不機嫌そうに立ち込め始め、山々の稜線に重苦しくのしかかっていた。
遠くの方では微かに雷鳴が鳴り響き、不安な空気が流れている。
烏丸と真魚の後ろから野太い声が上がった。
「そう遠くはなさそうですが。しかも中々に大物のようですぞ」
振り返れば、白い
「烏丸」
三芳の整えられた口髭が動いて、並びの良い白い歯が口許から覗いた。
祭りで打ち鳴らされる大太鼓のように、身体に深く響き渡るような低い声だった。
「はい」
烏丸は三芳に向き直ると、頭を下げた。
「場所を突き止めよ」
短く、簡潔な命に烏丸は頷くと、目を閉じた。
次の瞬間、三芳達の前にばさりと、大きな羽音と共に一羽の大烏が姿を現した。
鋭い鉤爪が伸びたその足は太く、そして三つに分かれている。
烏はそのまま上へと羽をはばたかせると、空高く浮かび上がった。
今や泣き出さんばかりの薄暗い空を、濡羽色に輝く一筋の光が流星のごとく裂いていった。
「真魚。
三芳の言葉に真魚は頭を下げ、恵果は大きく頷いた。
再び山道を進み始めた彼等の背には、空から冷たい雨粒が落ち始めていた。
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