第72話 小国のウワサ

 ピュン、と甲高い音が鳴る。以前と比べると格段に静かにはなったが、それでも独特の音がするようだ。だがしかし、その音で獲物の動きが止まることはあるが、逃げ出すことはなくなった。


 それに伴い、魔道砲から発射された弾が獲物に当たるようになってきた。それは音だけではなく、どうやら照準器のおかげでもあるようだ。

 気になっていた射程距離だが、弓矢よりもはるかに長いことが判明した。これはうれしい誤算だ。


「驚いた。これは思った以上に使える武器だな」

「えへへ」

「魔力も消費しないし、だれでも使えて便利よね。これからは魔道砲が弓矢よりも使われるようになるのかもね」


 ちょっと寂しそうな顔をしているシルフィー。エルフ族は弓矢が得意な種族だからな。それが他の武器に取って代わられるのは複雑な気持ちなのかも知れない。


「そうかも知れないな。だが、弓矢がなくなることはないだろう。魔道砲は音がするからな。それに、弾が特注品なので作るのが大変だ。素材の値段を考えると、弓矢よりも割高になるのは間違いないな」


 価格の壁によって、普及するまでにはかなりの時間がかかるかも知れないな。それに作り方を広める必要がある。当分の間は弓矢が主流のままだろう。

 リリラのような小さい種族、例えばドワーフ族やケットシー族なんかにはすぐに広まるのかも知れないけどな。


「確かにお金の問題はあるわね。リリラ、弾の無駄遣いをしちゃダメよ」

「分かってるって。でも撃つ練習をしないと、うまくはならないわよ」

「それもそうだな」


 どうやら魔道砲をきわめるには多額の金が必要になりそうだ。これからもしっかりと金を稼がなくてはいけないな。三人を不自由にさせるわけにはいかない。

 そんなことを考えつつ狩りを続ける。魔道砲が十分な戦力になることが判明したこともあり、今日の狩りはリリラを中心にして行った。


「満足、満足」

「弾をかなり消費したんだろう? 街へ行ったら火薬の材料を買わないといけないな」

「お金がかかるわね。リリラのお酒代を削らないといけなさそうだわ」

「ちょ、待ってよ!」


 リリラがシルフィーに懇願している。新しい武器が手に入ったのはうれしいが、そのためにお酒代を削るつもりはないようだ。どこまでもドワーフ族である。

 狩りの成果はすべて集落のドラゴン族に分け与えた。マジックバッグの中にはまだまだ肉が入っているからな。しばらく肉には困らない。


 ドラゴン族の長からは再び頭を下げられた。それと共に、これまでもらった肉で当分の間はしのげるので、もう大丈夫だと言われた。話を聞くと、どうやら新鮮な肉を食べたことで、急速に体力が回復しているそうである。あと数日もすれば、いつもの生活に戻れるだろうとのことだった。


 ドラゴン族はずいぶんと生命力が高いようだ。そのドラゴン族がやられるくらいなのだから、本当に瘴気は恐ろしい。他の種族なら、あっという間に廃人になることだろう。

 野営地へ戻ってきた俺たちは今後のことを話すことにした。


「これでドラゴン族も救うことができたと言ってよさそうだな」

「今のところはそういうことになるわね。でも、この場所に居続ければ、また同じことを繰り返すことになるわよ?」


 シルフィーがギュッと眉を寄せている。せっかく助かった命なのだ。粗末にして欲しくはないのだろう。

 エルフ族もドワーフ族も妖精族も、苦渋の決断をしてその地を捨てて生き抜くことを選んだのだ。口に出さずともそうして欲しいと思っているに違いない。


 もちろん俺もそう思っている。だが、それぞれの種族には積み上げられてきた誇りがある。そう簡単には決断できないことも理解できる。


「それはドラゴン族たちも分かっているだろう。みんなが元気になれば、これからどうするかを話し合うはずさ」

「そうね。私たちが口に出すことじゃないわね」

「それで、これからだが、山を越えたところにある小国へ行こうと思っている」


 俺に三人の視線が集まった。だが、それを否定することはなかった。逆に、なんだか納得しているような感じさえあった。


「今度はその小国で何かあるんでしょう?」

「鋭いな、リリラ。その通りだ」

「鋭いって……ねえ?」

「まあ、そうね」

「何があるのかしら? ハッキリと言うのだわ。さあ、さあ!」


 あきれ顔のリリラとシルフィー。そしてフェイは早く言えと言わんばかりに俺の方へと近づいてきた。どうやら俺の考えはお見通しのようである。それもそうか。これまで散々付き合わせて来たからな。正直に話すとしよう。


「その小国は、気がついたときには滅んでいた国なんだ。もしかすると、もうすでに滅んでいるのかも知れない」

「何よそれ。行くだけ無駄かも知れないってこと?」

「まあ、そうなるな。滅んだ原因もよく分かっていないからな。対処できるかどうかも分からん」


 さすがに予想外の答えだったのか、三人の視線が痛い。そんな蔑んだような目で見なくてもいいじゃないか。俺にだって分からないものはある。

 そんな中でも、シルフィーはちゃんと考えてくれていたみたいだ。アゴに手を当てて、おもむろに口を開いた。


「うーん、まずはドラゴン族にその小国の話を聞いてみるべきじゃないかしら? この山の向こうなんでしょう? 何か知っているかも知れないわ」

「確かにそうだな。よし、長に話を聞いてみるとしよう」


 善は急げとばかりに再び長の家へと向かう。長は嫌な顔一つせずに迎え入れてくれた。よくできた人物である。それでも長居は無用とばかりに小国についての話を聞いた。


「山を越えたところにある小国に行くおつもりですか。それはちょうどよかった。今、我々の話し合いの中で、その国へ移住しないかと検討しているところなのですよ」

「そうだったのか。それならお互いとって都合がよさそうだ。小国の情報をもらう代わりに、俺たちが様子を見てくるのはどうだろうか?」

「よろしいのですか?」

「もちろんだ」


 話は決まった。これで事前情報が手に入る。実際に小国へたどり着けば、もっと詳細な情報を得られるだろう。事と次第によってはドラゴン族の移住を止めることもできる。話を聞いておいてよかった。

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