第71話 ドラゴン族の救い手

 集落へ到着したときにはすでに日が暮れていた。そのため、そのまま長の家で休むことにした。長はといえば、袋を持ってどこかへと出かけたままだった。おそらく家々を回り、魔法薬を届けているのだろう。効果があることを祈るしかないな。


「明日は食料を配って回りましょう」

「そうだな。そうしよう。それとも、調理を作って配るか?」

「それもいいわね。明日、長に聞いてみましょう」


 保存食を食べながら明日の動きを確認し、俺たちは眠りについた。さすがに一日で山を登り集落まで来るのは大変だった。途中で狩りをしたこともあり、みんな疲れたようである。すぐに寝息が聞こえてきた。


 翌朝、そろそろ起きて朝食の準備をしなければと思っていると、長が部屋までやってきた。来て早々、土下座をしている。これにはかなり困惑した。まさかドラゴン族から土下座される日が来るとは思わなかった。


「魔法薬を飲んだみんなが目を覚ましました。むしばまれていた体も、みんな元に戻っているようです。なんとお礼を申し上げたらいいか」

「それはよかった。礼なら魔法薬を作ってくれたケットシー族に言ってやってくれ。俺たちは素材を採りに行っただけだからな」

「そういうわけには参りません」


 なんだかむずがゆいな。ドラゴン族からすれば、人族の俺なんて取るに足りない生き物だろうに。俺と長がやり取りをしている声が聞こえたようだ。他のみんなも起きてきた。

 どうやら他人の家だけあって、さすがのリリラも服を着た状態だった。いつもそうしてくれるといいのに。


「その様子だと、魔法薬が効いたみたいね」

「ああ、そのようだ。全員が目を覚ましたらしい」

「よかったわ。それじゃ、今度は栄養をつけてもらわなくちゃね!」

「そのためにお肉をいっぱい採ってきたのだわ!」


 朝から元気な二人の声に、長が驚いたように目を大きくしている。まさか食料まで調達しているとは思ってもみなかったようだ。俺たちの話を聞いて、再び床につきそうなほど頭を下げた。


「なんとお礼を申し上げたらよいか……」

「気にしないで欲しい。新しく開発した武器の性能を確かめる意味合いもあったからな」


 なおも恐縮する長を促し、土間へと向かう。狩りで仕留めた魔物の肉をほとんどその場で提供した。これだけあれば、しばらくは大丈夫だろう。長が集めてくれた集落の住人たちに渡すと、みんな喜んでくれた。


 少し話を聞いたのだが、動けるようになったものの、体力までは戻っていないようだった。それではしばらくの間、狩りには行けないだろう。用意しておいて正解だったな。野菜だけなら、なんとか採取しに行くことができるはずだ。


 長の許可を得て、集落の近くに野営地を作る。自分の家を使ってくれて構わないと長からは言われたが、そうはいかない。長の家にも患者がいたみたいだしな。今はそちらに気を配って欲しい。


 それに他人の家ではゆっくりと休むことができない。俺たちには宿屋かテントが似合っているようである。テントの設置はリリラに任せ、その間に朝食を作る。昨晩は質素な保存食だったからな。朝はちょっと手の込んだ料理にしよう。


「イザークは料理が上手なのだわ」

「これでも冒険者歴は長いからな。それだけ食事を作っている時間も長くなる」

「でもでも、みんなには手伝わせないのね?」

「……まあな。適材適所という言葉もある」


 ふーん、と納得したのか、納得していないのか分からない声を出すフェイ。シルフィーがメシマズであることを話した方がいいのかどうか、悩みどころだな。そのため、リリラにもあまり料理を手伝ってもらっていない。不審に思われるとまずいからな。


 今日の朝食は鳥の骨を煮込んで作ったスープだ。そこに野菜と肉を入れて、じっくりと旨味を吸わせている。出来上がるまでに少々時間がかかってしまったが、納得の仕上がりになっているので、みんなにも喜んでもらえるだろう。


「さあ、できたぞ。リリラも作業を中断して、食事にするぞ」


 先ほどから作業台で魔道砲の改良をしていたリリラが、こちらを見上げて目を輝かせた。どうやらおなかがすいていたことに今さら気がついたようである。すぐに料理を運ぶのを手伝ってくれた。


「改良はうまくいきそうなのか?」

「やってみないと分からないわね。うわっ、うまっ!」


 そう言うとスープをかけこみ始めた。そんなに急がなくても、だれもリリラの食事を取ったりはしない。それにおかわりも、少々ならあるからな。


「さすがはイザークね。料理人としてもやっていけるんじゃないの?」

「冒険者を引退することになったら考えておこう」


 冒険者を辞めたあとのことか。考えたこともなかったな。冒険者を辞めたとしても、二人はついてきてくれるのだろうか? フェイは……色々と生活様式が違うので一緒に暮らすのは難しいかも知れないな。


 集落の家々からは白い煙があがっている。どうやらあちらも朝食の時間になっているようだ。病は治ったようなので、しっかりと力を取り戻してもらいたいところだな。


 食事が終わると、魔道砲の改良を手伝うことにした。素人の意見だが、何かの参考になるかも知れない。最終的には先端部分に音を消すための部品が取り付けられ、弾を入れるフタの近くには望遠鏡のような物が取り付けられた。


「この照準器を使えば、獲物がしっかりと見えるようになるわ」

「このバツ印の重なっている場所に狙いが来るようにするんだな? よくできてるじゃないか」

「さっそく試しに行きましょう。音がどうなったのかも気になるわ」


 シルフィーがそう言いながらも、改良版魔道砲を確認していた。完成度が気になるようだ。しきりに手に持っては握り具合を確かめていた。

 仕上がり具合が気になるのか、色々と提案していたフェイも、照準器をのぞき込んで確かめている。


「さっそく行ってみるのだわ。これなら間違いなし!」

「自信がありそうだな。それじゃ、行くとするか。差し入れはまだまだ必要だろうからな」


 こうして俺たちは集落近くの森の中へと入って行った。

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