第70話 魔道砲

 リリラに鉄砲を返すと、さっそく改良を重ねることにしたようだ。実際に使用してみたことで、メリットとデメリットがハッキリとしたのだろう。持ち手も削って、手になじむようにしていた。


 そうこうしている間に夜になった。明日の朝には活力の丸薬が完成しているはずだ。そこから数日かけてドラゴン族の集落へ向かわなくてはならない。ここへ戻って来たときと同じ日程で進めば問題ない。

 夕食の準備をしながらフェイに話かける。


「フェイ、今日はよくあの魔法薬を飲んでくれた。頑張ったご褒美にマッサージをしてやろう」

「本当? やったーなのだわ!」

「私も手伝うわよ? 二分になっても一人じゃ無理でしょ」

「あたしも手伝うわ! あ、あたしもなんだか今日は頑張りすぎて疲れたなー」


 露骨にチラチラとこちらを見るリリラ。自分の武器を作っていたとはいえ、頑張ったといえば頑張ったのか? それを見たシルフィーも探るように俺を見てきた。


「イザーク、私も連日魔法を使って、疲れちゃったかなー?」

「……分かった。全員、マッサージすることにしよう」

「やったー! あ、そうだ、イザークもマッサージしてあげるね」

「あら、いい考えね。賛成よ」


 こうしてなぜか、全員で全員をマッサージすることになった。ちょっと予想とは違うが、お互いにスキンシップもできるし、これはこれでよさそうだ。

 夕食と風呂を終わらせてから、テントにこもるとみんなでマッサージをした。シルフィーの肩がやけに凝っていたな。重いものをつけているからな。大変そうだ。


 翌日、朝食を食べているとケットシー族の長がやって来た。その手には袋が握られている。どうやら活力の丸薬が完成したようだ。


「お待たせしました。活力の丸薬です」

「ありがとう。これでドラゴン族を救うことができる。ケットシー族が協力してくれたことは、しっかりとドラゴン族にも伝えておく」

「とんでもありません。私たちは助けていただいたお礼をしたにすぎませんよ」


 そう言いながらも、うれしそうに顔を毛繕いする長。どうやらケットシー族はうれしいと毛繕いするようである。それを見たリリラが触りたそうに両手をワキワキとさせていた。そしてそれを止めるシルフィー。


 俺といえば、ヒゲを引っ張りに行きたそうなフェイをつかんでいる。問題だらけのパーティーだな。

 集落へと戻って行く長を見届け、これからの動きを確認する。


「また川を渡ることになる。今回も、前回と同様にリリラを魔法で寝かせた状態で先に進もうと思う」

「そうね。それが一番速く進めると思うわ」

「リリラを縛るのは任せておくのだわ」

「お世話になります……」


 所在なさげにうつむいたリリラの頭をなでておく。だれにだって苦手なものの一つや二つ、あるものさ。気にする必要はない。それを助け合うのが仲間だ。


「途中で食料も調達しようと思う。ドラゴン族の集落に十分な食料がないかも知れないからな」

「ちょっと過保護な気もするけど、ここで手を抜いて死者が出てしまったら意味がないものね」

「賛成だわ。あたしも実戦で鉄砲を使ってみたいからね」


 反論はなさそうだな。もし肉が必要なければ、そのままマジックバッグに入れておけばいいのだ。そのうち自分たちの食料として使うことになるだろう。

 鉄砲はかなりの音がする。何も知らないドラゴン族が驚かなければよいのだが。


「鉄砲の音をなんとかした方がいいのかも知れないな。あの音を聞けば、近くにいる動物たちが逃げ出すだろう」

「確かにそうだね。音を消すことができないか、色々と試してみることにするわ」

「ねえ、名前は鉄砲のままなの? リリラが作ったんだから、かっこいい名前をつけて欲しいのだわ」


 どうやらフェイは再現した鉄砲に違う名前をつけたいようである。もしかすると、フェイが知っている鉄砲とは少し違う形をしているのかも知れないな。

 それを聞いたリリラが、うーん、と考え始めた。


「魔道鉄砲、いや、魔道砲とかどうかな? 魔道具の技術を応用した鉄砲だからさ」

「いいんじゃないか?」

「そうね、なかなかよさそうだわ。分かりやすいしね」

「魔道砲……いい響きなのだわ」


 フェイも納得したようである。これで決まりだな。商品として売りに出されることがあれば、この名前が使われることになるだろう。初めて開発した武器をリリラが大事そうに抱えていた。


 食事を終え、ケットシー族の集落に設営した野営地を引き払うとすぐに出発した。そのまま夕暮れ前には川沿いに到着し、翌日川を渡った。ドラゴン族の集落まではあと少しである。


「リリラ、あそこに獲物がいるぞ」

「よし、今度こそ……! あっ、またダメか~」

「なかなか狙うのが難しいみたいだな。もしかすると、届く距離に限界があるのかも知れない」


 これで三回連続の失敗である。ガックリと肩を落とすリリラをフェイが慰めていた。いいところまではいっていると思うんだけどな。音に獲物が反応するのが原因なのか、そもそもの精度が悪いのかは分からないが、命中しないのだ。


「落ち着いたら、しっかりと性能を確認しましょう。ほら、もうすぐドラゴン族の集落よ。頑張って」


 シルフィーが優しく声をかける。ここで落ち込んでいてもしょうがないからな。とにかく今は先に進まなければならない。

 そうして山道を進んでいると、ようやくドラゴン族の集落が見えて来た。出発したときと同じく、閑散としている。


 そのまま俺たちはドラゴン族の長の家へと向かった。戻って来た俺たちを長が迎えてくれた。だがその笑顔には力がなかった。


「ケットシー族のところで活力の丸薬という魔法薬を作ってもらった。これを使えば、生命力を高めることができるそうだ。生命力を高めれば、瘴気を跳ね返すことができるはずだ」

「おおお……! 確かに、確かに! 生命力を高めれば、体をむしばんでいる瘴気を取りのぞくことができるかも知れません」


 震える手で俺の両手を握りしめてきた。ようやくドラゴン族にも光明が見えてきたようである。あとはこの作戦がうまくいくことを願おう。

 ケットシー族からもらった活力の丸薬を、すべて長に手渡した。この集落のドラゴン族に行き渡るのに十分な数があるはずだ。




********************


ここまで読んでいただき、まことにありがとうございます!

もし、面白いと思っていただけましたら、お気に入り登録と、星での評価をいただけると、今後の創作の励みになります。

よろしくお願いします!


********************

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る