第69話 お気に入り

 そのままリリラは作っていた弾をすべて練習に費やした。その満足そうな表情を見るに、どうやら鉄砲をかなり気に入ったようである。


「いいわ、これ。癖になりそう。快・感……」

「ううう、私も撃ってみたいのだわ。さあ、リリラ。キリキリと新しい弾を作るのだわ!」

「サー、イエッサー!」


 ピッと敬礼のポーズを取ると、再びリリラが作業台についた。残りの火薬の量から察すると、あと三十発分くらいは作れそうである。慣れてきたのか、作る速度もあがっている。

 そんなにいい物だったのか。ちょっと気になってきたぞ。


「売りに出したりはしないよな?」

「そのつもりはないと思うわよ。ドワーフ族だし」

「それもそうだな」


 ドワーフ族は、一つ作れば満足するような種族である。同じ物を量産するなど、絶対やらないだろう。そうなると、そのうち弾を作るのも飽きるかも知れない。何か別の方法を考えた方がいいな。


 魔道具の技術を応用できないだろうか? 例えば、弾の代わりに魔法を飛ばすようにすれば、弾に火薬を込める作業をやらなくてすむだろう。今でも火をおこしたり、水を出したりすることができるのだ。可能性は高いと思う。


「弾を魔法にできないのか?」

「どうかしら。できたとしても、威力が弱いんじゃないの?」


 シルフィーが言うのはもっともだ。基本的に魔道具として使われている魔法は威力の弱いものばかりだ。わざとそうしているのかと言えば、それは違う。それが限界なのだ。

 魔道具はだれでも使える便利な道具だが、戦いに使えるような高火力の物は作れない。


「それなら、俺も弾を作れるようになっておいた方がよさそうだな。リリラが弾を作るのに飽きると、非常に困ったことになる」

「……それもそうね。私も一緒に習っておこうかしら」


 こうして俺とシルフィーも弾作りを手伝い、三十発分の弾が完成した。火薬さえ調合してもらえれば俺たちでも作れるな。火薬は一度でそれなりの量を作ることができるみたいなので、リリラが飽きないように一緒に作ることにしよう。


「これでしばらくは弾がなくなることはなさそうだな」

「うん。みんなありがとう!」

「ねえ、リリラ、私も撃ってみたいのだわ」

「もちろんフェイも使ってみてよ。でも、おっきくならないと無理だよね?」

「おっきくなるのだわ!」


 フェイが大人サイズになった。なんだか前回よりも魅力的な女性になっているような気がする。なんだかドキドキしてきた。服装も、体のラインを強調したきわどい物になっている。


「うふふ、イザークの目がエッチなのだわ」

「いや、その……」

「なんか、ずるい」

「新しく妖精たちと合体した影響なんでしょうね。このまま合体し続けると、最後はおばあちゃんになりそうだわ」

「ちょっと、シルフィー!」


 目を大きくしたフェイがシルフィーを見ている。妖精合体することで年齢が増える仕組みになっているのならば、いずれそうなるのかも知れないな。

 シルフィーの俺を見る目は冷ややかだ。これは間違いなく嫉妬している。フェイの姿については何も言わない方がよさそうだ。


「フェイ、早く撃たないと元の姿に戻ることになるぞ」

「そうだったのだわ!」


 慌てて鉄砲の引き金を引いた。パンという音がする。

 次の瞬間、フェイが後ろへ転げた。慌てて抱きかかえたのでケガはしていない。何が起こったんだ?


「あー、そういえば、結構反動があるよ?」

「言うのが遅いのだわ! リリラがビクともしていなかったから、油断したのだわ。でもイザークに抱かれたからラッキーなのだわ」


 ラッキーと思われているなら何よりだ。変態扱いされるよりかはずっとよろしい。

 それにしても反動があるのか。空を浮遊しているフェイには鉄砲を使うのは難しそうだな。


 地面に足をつけて踏ん張ればなんとかなると思うのだが、残念ながらフェイが地面で踏ん張っているところは見たことがない。

 テーブルの上で伸びている姿なら何度も見たことがあるのだが。


「フェイには使えない武器みたいだな。この感じだと、シルフィーが使うのもやめておいた方がよさそうだ」

「そうみたいね。でも、反動でイザークが抱いてくれるのならありかも……」

「危ないからやめなさい」


 どうしてそこで対抗心を燃やすのか。それよりも身の安全を確保してもらいたい。それにしても、いつもよりもフェイが大人の姿になっている時間が長いような気がする。もしかして、ずっとこの姿をたもてるようになったのか? それはそれで問題が起こりそうな気がする。


 そう思っていると、フェイが急激に縮み始めた。時間は約二分だな。前が一分だったので、妖精合体したことで倍になったというわけだ。地面に落ちそうになった鉄砲を片手で受け止める。


「あらら、もう戻っちゃったのだわ」

「ねえ、前よりも長くなかった?」

「リリラもそう感じたのね。私もよ。イザークは?」

「二分くらいに伸びているな。合体を続ければもっと長くなるのかも知れない」

「え、本当なの? それじゃ、そのうち私の夢がかなうかも知れないのだわ!」


 俺の腕の中で喜ぶフェイ。フェイの夢がなんなのか気になるが、ここでは聞かない方がいいような気がした。それどころか、全力で別の話に仕向けた方がよさそうな気がする。

 ほら見ろ。シルフィーの片方の眉があがっているぞ。不審に思っているようだ。


「リリラ、俺も試しに使ってみてもいいか?」

「もちろんよ。反動には気をつけてね」

「了解した」


 リリラから弾を受け取り、鉄砲にセットする。この動作が入るので連続で撃つことはできないな。この辺りは改良すればなんとかなるのだろうか。

 引き金を引いた。パンという音と共に反対方向へグッと体が押される。だが、大したことはないようだ。


「なかなかいいじゃないか。これなら十分な戦力になりそうだ。あとは命中率がどうなるかだな。期待してるぞ、リリラ」

「任せてよ!」


 新しい自分の武器を手に、やる気満々のようである。これなら改良型もすぐに作られるかも知れないな。これでリリラも安全圏から攻撃する手段を持つことができた。俺も安心して戦えるようになりそうだ。もちろん、引き続き、盾の使い方は教えるつもりだ。

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