第68話 鉄砲

 フェイと俺たちの様子を見て、ダメだったと悟ったらしい。ガックリと肩を落とす長。もしかしてフェイを実験台にしているのではないかという疑問が湧いてくる。もしかして、危険なのでは?


「ダメでしたか」

「ダメだな。問題は飲みやすさじゃない。味だ。味をなんとかして欲しい」

「しかしですね、良薬は口に苦し、と言いますし……」

「良薬で口に苦くない魔法薬を作って欲しい。この際、効果は下がってもいい」

「そんな」


 どうやらケットシー族は効果重視のようである。まずかろう、すごかろう、なのだろう。フェイのためにも、ぜひともその考え方から離れて欲しいところである。

 その後はシルフィーと二人で説得し、今度は味を追求することを約束させた。これで次は期待できるだろう。フェイもニッコリの魔法薬を作って欲しいものである。


 長にお礼を言ってから別れると、そのままケットシー族の集落付近の見回りを行った。特に問題はないようだ。それだけケットシー族の作った魔物よけの魔法薬が優秀ということなのだろう。


 途中で見つけた果実をいくつか採取し、テントへと戻った。そろそろリリラの作業も落ち着いた頃合いだろう。


「リリラ、作業はどうだ?」

「あ、お帰り~。順調順調。見てよ、これだけダイナマイトを作ることができたわ。それに、フェイが言っていた火薬も準備できたよ」


 そう言ってリリラがマジックバッグからダイナマイトを取り出した。全部で十個くらいあるだろうか? ダイナマイトの破壊力はなかなかのものである。これがあれば、リリラが無理して魔法を覚える必要はないのかも知れない。


「ふむふむ、なかなかやるじゃない。これなら鉄砲の弾を作ることができそうなのだわ」

「それじゃ、午後からは鉄砲作りだな。まずは昼にしよう。新鮮な果物を採ってきたから、それを切り分けて食べよう」

「やったのだわ!」

「そういえば、おなかがペッコペコだよぉ」


 どうやらリリラは作業に没頭していたようである。だれかがリリラの隣について休憩を促す必要がありそうだな。

 リリラにも、集落の状態とフェイが飲んだ魔法薬の話をしておいた。


「次に来たときには、きっと飲める魔法薬ができているはずだ」

「その魔法薬、罰ゲームに使えそうだよね」

「罰ゲーム、いい響きなのだわ!」

「なんの罰ゲームだよ。そうだ、あの魔法薬を飲めば、リリラの魔法の練習もはかどるかも知れないぞ?」

「ヒッ!」


 口は災いの元。フェイが実にイイ顔でリリラの方を見ながらうなずいていた。

 昼食後、やたらと低姿勢になったリリラがフェイから鉄砲の作り方を教わっていた。念のため、監視役として俺もついておくことにする。


 シルフィーはテントの中で昼寝をするようだ。連日、魔法を使わせているからな。本人は口に出すようなことはしないが、疲れが蓄積されていたのだろう。気づけるようにならないといけないな。


「まずはこのくらいの長さで筒状の鉄の棒を作るのだわ」

「分かりました。太さはどのくらいにしましょうか?」

「……リリラ、普通にしゃべって欲しいのだわ。なんだか気持ち悪いのだわ」


 フェイが自分を抱いた。どうやら鳥肌が立っているようだ。確かに奇妙な感じではあるな。それでもどこかオドオドとした様子で作業を進めるリリラ。おびえすぎ。

 だがさすがはドワーフ族なだけあって、すぐにそれらしい物が出来上がった。火縄銃のような見た目である。


「これが鉄砲なのね」

「そうなのだわ。あとは鉄砲から発射する弾を作る必要があるのだわ」


 途中で休憩を入れさせながら作業は進んでいく。やはりリリラは作り出すと周りが見えなくなるタイプのようであり、自分から休憩することはなかった。

 弾は火薬の爆発を利用して飛ばすものであり、弾と火薬が小さな筒の中で一緒になっている。着火には魔道具の技術を応用するようだ。


「とりあえず十個くらい作ったけど、試しに使ってみてもいい?」

「もちろんなのだわ」

「あー、シルフィーが寝ているから、場所を移した方が……」

「もう起きたから大丈夫よ」


 テントから出て来たシルフィーの顔はどこかスッキリとしていた。発砲音で起こすようなことにならなくてよかった。

 リリラが作った鉄砲に興味があるのか、シルフィーは手に取って見せてもらっていた。


「ここを引けば弾が出るのね?」

「そうみたい」

「そうなのだわ。さっそく弾をこめて撃ってみるのだわ!」


 なんだか楽しそうなフェイ。いにしえの技術を復活できてご満悦のようである。みんなの反応も気になるのだろう。ちょっと悪い顔をして飛び回っている。

 いきなり大きな音がしたらケットシー族が驚くだろう。対策は必要だな。


「シルフィー、すまないが、この辺りに防音の魔法を使って欲しい」

「ああ、なるほど。大きな音がする武器なのね。火薬を使っているから、確かにそうだわ」

「あー、イザークは鉄砲を知っているのかしら?」

「まあな。どこかで見た記憶がある」


 フェイが首をかしげている。まさか知っている人がいるとは思わなかったようだ。まあ、俺が知っている知識はあやふやなものなんだけどな。この知識はどこから来たのだろうか。相変わらず、よく思い出せないな。


「防音の魔法を使ったわ。これで大きな音がしても大丈夫よ」

「ありがとう、シルフィー。それじゃさっそく」


 リリラが鉄砲に弾をこめた。どうやら一発撃つごとに弾をこめる必要があるみたいだ。

 ガチャン、と音がする。フタでも閉めたのかな? この位置ではよく見えなかった。フェイからは使い方を教わっているのだろう。しっかりとリリラが鉄砲を構えた。


 パンという大きな音が鳴る。防音の魔法がなかったら、間違いなくケットシー族が集まって来ていたところだろう。どうやら弾は木に命中したらしく、穴があき、穴の周囲の樹皮が少しだけなくなっていた。


「当たった!」

「ふむ、弓矢とは違い、慣れればだれでも使えるようになりそうだな。リリラにはちょうどいい武器なんじゃないのか?」

「毎回、弾を入れるのが大変だけどね。あと、撃ったあとの弾の残骸を回収しなきゃいけないし」


 そう言ってレバーを引っ張ると、鉄砲の中から、小さな鉄の筒が出て来た。それを腰の袋に入れる。ちょっと熱かったようで、リリラが手袋をつけた。


「それでも撃つのだけに集中すればいいだけだから、あたしにはピッタリね」

「リリラは手先は器用なんだけど、戦うときは不器用なのだわ」

「ほっといてよ。自覚はあるから」


 リリラが口をとがらせた。戦うときは不器用というよりも、むしろ戦うのが好きではないと言った方が正しいような気がする。リリラは優しい娘だからな。

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