第67話 改良版

 次の日は作業台の製作から入った。先に踏み台を作ろうかと思ったのだが、リリラから却下されたのだ。いわく、”そんな物がなくても入れる”とのことだった。

 ……入れてるのは俺がリリラを抱きかかえているからなんだけどな。まあいいか。


 丈夫な作業台を二人で協力して作っているのにはもちろんわけがある。リリラがダイナマイトと鉄砲を作りたいと言い出したからだ。立派な作業台があれば、外でも問題なく作れるそうである。


「本当に外で作っても大丈夫なのか? ダイナマイトの素材は粉物が多いんだよな。風で飛ぶんじゃないのか?」

「そこはシルフィーの魔法で風が吹かないようにしてもらうわ」

「完全にシルフィー頼みだな。魔法の習得はどうなった?」

「う……頑張ってるわ」


 どうやらあまりうまくいっていないようだ。やはり魔法を使うのはセンスが必要なようである。そう簡単には使えるようにはならないか。早くても半年とか、一年とか、修行する必要があるのだろう。寿命が人族よりも長いドワーフ族なら大した問題ではないかも知れないけどな。


「よし、完成ー! 完璧だわ」

「ずいぶんと丈夫な仕上がりになったな」


 作業台をたたいてみるが、どこをたたいても堅くてしっかりと詰まっている反応が返ってきた。これならちょっとやそっとでは壊れないだろう。リリラもニッコリである。色んな種類の木を伐採していてよかった。


「それじゃ、さっそく作ろうかな。まずは火薬の作成からね」

「火薬か。冗談でもふざけない方がよさそうだな。特にフェイ」

「や、やだなー、そんな危ないことはしないよ? ちょっと気になるけど」


 ソワソワとし始めたフェイを捕まえてカバンの中に収納する。しっかりと閉めておけば大丈夫だろう。カバンがボコボコと波打っている。中からたたいているようだ。


「ちょっと、私がいないと鉄砲は作れないのだわ!」


 カバンの中から声が聞こえて来る。確かにそうだな。鉄砲を作るにはフェイの力が必要だろう。だがそれは今じゃない。


「リリラ、先にダイナマイトを作ってくれ。それが終わればフェイを解き放っても大丈夫だろう」

「ちょっと、かわいい妖精の私を、厄介者の害獣みたいに取り扱うのはやめて欲しいのだわ!」


 抗議の声をあげるフェイ。確かに最近は目立つようなイタズラをせず、おとなしくしているが、腐っても妖精族である。その油断が命取りになりかねない。却下だな。

 しょうがないのでカバンの中からは出すことにするが、リリラのところへ行かないように紐をつけておく。


「なんだかイザークのペットになったみたいなのだわ。……エッチ」

「どうしてそういう考えになるんだ。いやらしいことでもして欲しいのか?」

「いやん、目がエッチだぞ」

「気が散る! 二人ともちょっとどこかに行っておいて!」


 リリラに怒られた。どうやらダイナマイトを作成するのはかなりの神経を使うようである。試薬の配合が繊細なんだろうな。黙って退散することにした。そのついでに、シルフィーに風魔法を使ってもらえるように頼んでおく。二つ返事で引き受けてくれた。頼りになるな。


 することもないので集落を見回る。そのうちの一つの家からは白い煙がモクモクとあがっていた。活力の丸薬を作っている家である。その家の周りには数人のケットシー族が何やら作業をしていた。

 それを遠目に見ていると、シルフィーがこちらへとやって来た。


「かなり難易度が高い魔法薬みたいね」

「分かるのか?」

「ええ、もちろん。ケットシー族ほどではないけど、エルフ族も魔法薬を作れるもの。でも、あそこまで入念に下ごしらえはしないし、人も必要ないわ。もちろん、時間も長くて半日くらいしかかからないわ」


 エルフ族は魔法薬よりもマジックアイテムを作る方が得意だもんな。

 ドワーフ族は鍛冶仕事が得意だし、それぞれの種族が何か特化した技能を持っている。ただし、人族はのぞく。人族は種族単位ではなくて、個人単位で技能を持っているからな。そしてどれも中途半端である。


「英雄どの、探しましたぞ」

「何かあったのか?」

「前に、魔力量を回復させる魔法薬を探しておりましたな? あれの改良版がつい先ほど完成したのですよ。それでぜひとも試してもらおうかと思いましてな」


 フェイが逃げ出そうとしたが、紐でつながっているため、それはできなかった。紐をたぐり寄せてフェイを捕まえる。

 前回はまずくてダメだったが、改良版ならいけるかも知れない。


「どんな魔法薬なんだ?」

「丸薬では飲みにくいと思って液状にしました。これで飲みやすくなったはずです」

「味は?」

「味はそのままですな」


 フェイが逃げ出そうと俺の両手を蹴ったが、いくら蹴っても無駄だぞ。絶対に離さない。これはフェイの残りの魔力量を気にしなくてすむようになる、絶好の機会なのだ。それをいつ試すのか。今でしょ。


「試してみる価値はあるな」

「ないない、ないから! 試す価値なんてないのだわ! イザーク、他人事ひとごとだと思って楽しんでるでしょ?」

「そんなことはないぞ。フェイのことを思って言っている」

「私もイザークと同じ考えよ。今のフェイには外から魔力を補充する方法が必要よ」

「う……」


 シルフィーにそう言われてあがくのをやめたフェイ。どうやら俺はまだまだ信頼されていないようだな。もっとフェイから信頼されるように頑張らないといけないようだ。


「それではすぐに持って来ます」

「いや、俺たちも一緒に行こう」


 長の家について行くと、まがまがしい赤色の液体が入った小瓶を持って来た。これはダメかも知れない。さすがにこれを強要するのは気が引ける。シルフィーと目が合った。どうやらシルフィーも同じ考えに至ったようである。


「フェイ、無理そうならやめておいていいぞ」

「そうよ。もっと他にも方法があるはずよ。ね?」

「……飲むのだわ」


 フェイの目が据わっている。俺たちが心配している気持ちがしっかりと伝わったのだろう。だが、それは今じゃなかった方がよかったような気がする。フェイが飲みやすいように小さな器に移された。

 目をつぶったフェイがそれを飲んだ。


「まっず! この世界の森を凝縮させて、発酵させたような味がする。うええ……」


 それでもなんとか一口目は飲み干したが、二口目は無理だったようである。すぐにシルフィーが果物を食べさせている。よく頑張ったぞ、フェイ。今夜はみんなでマッサージだな。


「どうだ? 魔力が増えたか?」

「……増えたような気もするけど、効果が低くて分からないのだわ」


 さすがに一口では無理か。やはり別の方法を探すべきだな。

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