第66話 活力の丸薬

 活力草を探しながら、別の場所へと移動する。一つの場所に生えている活力草を根こそぎ採取するわけにはいかないからな。そんなことをすれば、活力草がこの世界から消えてしまうことになる。それだけは避けなければ。


 フェイに頼んで空から確認してもらい、活力草は生えていそうな場所へ移動する。新たな場所には別の魔物がいたが、先ほどと同様に落とし穴作戦でなんとかなった。

 思った以上に使える作戦だな。まあ、事前準備が必要なので、相手がどこにいるのかが分からなければ使えないのが弱点なのだが。


「だいぶ集まったわね。今日はこのくらいで戻りましょう」

「そうだな。これだけあれば、人数分は作れるだろう。足らなかったらまたここへ戻って来よう。今は少しでも早く、ドラゴン族へ魔法薬を届ける必要があるからな」

「手遅れになったら大変だもんね」


 意見が一致したところで野営地へと戻ってきた。明日の朝早く出発すれば、その日のうちにケットシー族の集落まで戻ることができるはずだ。事前にケットシー族には言ってあるので、魔法薬を作る準備はしている思う。それでも魔法薬が完成するまでにどのくらいの時間がかかるのかは分からない。なるべく急ぐに越したことはないだろう。


 その日の夜は少しだけリリラに酒を飲ませた。一日頑張った報酬である。それでも喜んでくれた。ドワーフ族はめったに酒に酔うことはないので、普通に飲ませても大丈夫だと思うが念のためだ。


 もちろんフェイには果物を与えている。こちらは体が小さいため、一つで十分足りる。なかなか経済的である。十分満足したのか、リリラもフェイも俺の近くで丸くなっている。


「魔法薬が間に合うといいんだが」

「きっと大丈夫よ。ドラゴン族はとても丈夫な種族だもの。それに、イザークはできる限りのことをしているわ」

「それができるのもみんなのおかげだけどな」


 本当にありがたい限りだ。俺一人だったら、とうの昔にあきらめていたかも知れない。三人と出会えたことが、なんと幸運な縁であったことか。

 すでに夢の中へと入り込んだ二人を連れて、テントへ入った。シルフィーが見張りの魔法を使ってくれているおかげで、負担が少なくてすむ。

 シルフィーをテントに押し込むと、念のため、見張りについた。




 翌日、朝早くから出発したこともあり、夕方になる前にはケットシー族の集落にたどり着くことができた。準備はすでにできているようだ。


「これが活力草で間違いないな?」

「はい。間違いありません。これで活力の丸薬を作ることができます」

「活力の丸薬~?」


 癒やそうな顔をするフェイ。以前に魔力の丸薬をリリラに無理やり食べさせられたからな。そのときのことを思い出したのだろう。まずいと思ったのか、リリラがそっと俺の後ろに隠れた。


「これだけでどのくらいの数の魔法薬を作れそうなんだ?」

「五十個ほど作れると思います」

「それなら十分に行き渡るな」


 よかった。どうやら魔法薬はなんとかなりそうである。過剰分は念のため、ケットシー族に持ってもらうことにしよう。俺たちは地脈の近くにとどまるつもりはないので必要ないだろう。


 これから活力草の下準備をして、実際に作るのは明日からになるそうだ。聞いたところによると、調合には丸一日かかるらしい。そのため、交代で作ることになるようだ。

 ケットシー族に負担をかけてしまったな。何か礼をと思ったのだが、これでもまだ借りは返せていないと言って断られてしまった。


 この集落を出るのは明後日になる。その間は何もすることがない。それなら、これから集落の外にしっかりとした拠点を作って風呂を設置することにしよう。そろそろ風呂に入りたいころだろうからな。


 ケットシー族の長に尋ねると、好きにしてよいとのことだった。これで遠慮なく設備を置くことができるぞ。シルフィーに頼んで地面を整えてもらい、風呂を設置する。

 今回は囲いも必要だな。マジックバッグに収納していた木を取り出して、リリラと一緒に木の板に加工する。それを釘で打ち付けてついたてを作成する。


 一度作ってしまえばマジックバッグに収納できるので、何度でも再利用できる。これからは、設置するだけで使える物も集めておいた方がよさそうだ。荷物を気にしなくてすむのは大変ありがたい。


「これで外からは丸見えじゃなくなったな」

「内からは丸見えなんだけどね。これでイザークも遠慮なく一緒にお風呂に入れるようになったわね」

「いやらしいのだわ!」

「いや、そんなつもりはみじんもなかったのだが……」


 誤解されているようだが、遠慮なく風呂に入られるようになったのは確かだな。それでもみんなまとめて入るのは無理そうだ。シルフィーに頼んで湯を沸かしてもらい、リリラとフェイを風呂に入れた。


 シルフィーには負担をかけてばかりだな。ねぎらいの意味も込めて、今日は背中を流してあげることにしよう。決してスケベ心からではない。相変わらず一人ではタル風呂に入れないリリラを抱えながら、次は踏み台を作る決意を固めた。


「お疲れ様。イザークも飲む?」

「そうだな。一杯もらおう。さすがにこの場所なら大丈夫だろう」

「もう、イザークは本当に心配性ね。魔法を使っているから大丈夫よ」


 シルフィーはあきれているが、これは職業病のようなものだ。街の外にいるときは常に警戒してしまう癖がついている。こればかりはどうしようもないだろうし、必要な技能だと思っている。


 風呂場からは楽しそうな声が聞こえている。やっぱり風呂は大事だな。長旅をするにしても、心の洗濯は必要である。二人があがると、シルフィーと一緒に風呂に入った。リリラとフェイからは不審そうな目で見られたが、決してそのようなことをするつもりはなかった。


 風呂からあがると、リリラとフェイがチビチビと酒を飲んでいた。フェイも酒を飲むのか。ちょっと意外だ。そんな視線に気がついたのか、二人が飲むのをやめた。


「ずいぶんと楽しそうな声がしてたけど?」

「二人だけで楽しんでずるいのだわ。次は私たちも一緒に楽しむのだわ!」

「落ち着け二人とも。まずは食事にしよう。それからその話をゆっくりとしよう」


 不満を漏らす二人をなんとかなだめてから食事にする。今日の夕飯はブルヘッドの肉を入れたシチューである。おいしくできているはずなので、どうかそんな顔をしないで欲しい。

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