第65話 活力草

 ブルヘッドに見つからないようにその場から少し離れた。休憩もかねて、この場所で作戦会議だ。フェイの思いついた妙案とやらを聞かせてもらおうではないか。

 すぐにフェイは思いついたイタズラを教えてくれた。


「なるほど、落とし穴か。いい考えなんじゃないのか?」

「あたしもそう思う。穴を掘るのなら任せてよ。魔法でチョチョイのチョイよ」

「リリラ、魔法が使えたのか……」

「……うん。穴を掘る魔法だけしか使えないけどね。うわぁぁあん!」


 メソメソし始めたリリラを姉役のシルフィーがなだめている。その間に俺とフェイとで、どの辺りに穴を掘るかを話し合う。

 あの草がたくさん生えている場所はやめた方がいいだろう。もったいない。それならば、今いるこの辺りがよさそうだ。


「ねえ、シルフィー、あたしに魔法を教えてよ。キレイになる方法だけじゃなくてさ」

「もう、しょうがないわねぇ」


 シルフィーが眉を下げているが、満更でもなさそうな口元である。エルフ族が魔法の使い方を他種族に教えていいのかは分からないが、どうやら教えることにしたようだ。

 リリラは土属性魔法が得意のようなので、ぜひ、岩石を飛ばすくらいの魔法を覚えてもらいたいものである。強化魔法は使えるみたいだしな。


「休憩が終わればこの辺りに穴を掘ろう。あまり木を切り倒すと怪しまれるかも知れないから、最小限の場所になる」

「何カ所か用意しておけばなんとかなるんじゃないかしら?」

「落とし穴のカモフラージュは私に任せて欲しいのだわ。完璧な地面を作り出してみせるのだわ」

「俺たちが穴にはまらないように、しっかりと印をつけておかないといけないな」


 イタズラの天才である妖精が本気で落とし穴を作れば、間違いなく、その辺りの地面と見分けがつかなくなるだろう。落ちないようにする対策は必須である。念のため、浮遊魔法を使ってもらっておいた方が安心できるかも知れない。


 休憩を終えて、落とし穴作りを開始した。さすがは穴掘りに自信があるだけあって、ものすごい速さで穴が掘られている。ドワーフ族は本当に鉱山掘りに特化した種族のようである。


 リリラが掘った穴の上に、フェイがフタをしていく。こちらもお見事と言うしかない。隣の地面と全く区別がつかないのだ。目印として石を置いているのだが、それを知らなければ、間違いなく引っかかるだろう。


「全部で三つ用意したのだわ」

「これならブルヘッドの数を減らすことができるね。穴なから出た土はマジックバッグに回収しているから、これが終わったら元に戻しておかないとね」


 穴を掘ったときの土の山ができないと思っていたら、どうやらリリラがシルフィーからマジックバッグを借りて、その中に詰め込んでいたようである。そうなると、俺たちが持っているマジックバッグにはかなりの量の物が入るということになる。これはいい拾いものをしたようだ。


「よし、準備完了だな。それじゃ、手はず通り、みんなは木の上に登っておいてくれ。俺があいつらをおびき寄せる」

「気をつけてね」

「任せておけ。油断はしないさ」


 心配そうにこちらを見るシルフィーに笑顔を向けて、先ほどの場所へと向かった。そこではまだ、ブルヘッドたちがその場所を守るかのようにウロウロとしていた。

 この辺りの土には魔力が豊富に含まれているのだろうか? ブルヘッドが食事をしている感じではないが、いつまでもこの場所から動かないのが気にかかる。


 なるべく足下に生えている植物を荒らさないように、慎重に回り込む。うまく誘導するためにも、少し危険だが、なるべく近づく必要があるだろう。

 ジリジリと近づいて行くと、ブルヘッドたちがこちらの動きに気がついた。すでに排除へ動き始めたようで、固い頭をこちらに向けて、威嚇するかのように頭を上げ下げしている。


 それでも気にせずに近づくと、先頭のブルヘッドが地面を蹴りながらこちらへと突進してきた。それに続いて、後方にいたブルヘッドたちも突撃してくる。それを確認すると、距離を空けすぎないように注意しながら逃げ出した。どうやらうまいこと、おびき寄せることに成功したようである。


 落とし穴の罠がある場所までやって来た。直後に体が軽くなる。シルフィーが浮遊魔法を使ってくれたようだ。それを利用して、落とし穴の上を、まるでそこにはそんな物などないかのように通り抜ける。


 すぐに何も知らないブルヘッドたちが落とし穴にはまった。難を逃れたブルヘッドが罠だと気がついたのか、別の方向へ逃げ始めたが、それを予知したかのように設置してあった落とし穴に次々とはまっていく。


「上出来だな。あまり価値が高いわけではないが、魔石を回収しておこう。シルフィー、トドメを刺してもらえるか?」

「分かったわ」

「あーあ、あたしも早くフェイに教えてもらった鉄砲を作りたいよ。そうすればここから攻撃できるのに」


 シルフィーが魔法でブルヘッドたちを倒していく。俺が弓矢で攻撃しても倒すまでにはかなりの時間がかかるだろう。頑丈さには定評がある魔物だからな。しかし鉄砲か。リリラは本当に作るつもりなのか? 注意して見守る必要がありそうだ。


 ブルヘッドから魔石を回収し、地面を元の通りに戻す。少しでこぼこになっているが、困るやつはいないだろう。これでようやく落ち着いて活力草を採取することができるぞ。


「ここからが本番だな」

「なんだかあたし、一仕事終えた気分なんだけど」

「私もなのだわ。果物を所望するのだわ」

「それじゃ、あたしはお酒!」

「どうしてそうなるんだ。野営地に戻るまでは酒は禁止だぞ」


 果物はまだしも、酒は無理だろう。リリラが膨れているが、どうしてその要求が通ると思ったのだろうか。ドワーフ族の思考はよく分からないな。そんなリリラをなだめながら活力草探しに移った。


「これが活力草みたいね。他の薬草はどれも見たことがあるわ。これだけが初めて見るわね」

「エルフ族が管理していた森でも採取できない薬草なのか。育つためには何か特別な条件が必要なのかも知れないな」

「えっと、これは薬草で、こっちは毒消草……ああ、もう、よく分かんない!」

「この辺りの草を根こそぎ持って帰って、ケットシー族に丸投げするのだわ。きっと区別してくれるのだわ」

「いい考えね!」

「よくないから。間違っていても構わないから、活力草らしきのをちゃんと探すように」


 口をとがらせるリリラとフェイ。さすがにあきらめるのが早すぎだろう。鉱物を見分けるよりかは分かりやすいと思うのは俺だけなのだろうか?

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