第73話 港湾都市
話し合いの結果、この話はケットシー族にも持って行くことになった。そのことを提案したのはドラゴン族だった。
どうやら、魔法薬を作ってもらったお礼をしたいと考えていたらしい。それで一緒に移住しないかと提案することに決めたようだ。
ケットシー族は非常に弱い種族である。その護衛にドラゴン族がついてくれるのなら、ケットシー族も安心して移住を決断することができるだろう。
他種族が共に手を取り合うか。人族では考えられない話だな。人族は自分たちの種族が一番だと心のどこかで思っている節がある。そのため、人族主導で他種族国家を作るのは不可能だろう。
「よかったわね。これでケットシー族もなんとかなりそうだわ」
「それなら、妖精族も呼び寄せようかしら? そして一緒に住んでもらえればいいのだわ」
「……大丈夫なのか、それ?」
フェイに注目が集まった。シルフィーとリリラは疑うような目をしている。きっと俺の目も同じだろう。そんな俺たちを見たフェイがプクッとほほを膨らませた。ご立腹のようである。
「みんなひどいのだわ。妖精族だってやるときはやるのだわ!」
「そうか。それなら一緒に住む種族にはイタズラをしないように言い聞かせておいてくれ。もしそれを破ったら……」
「も、もちろんしっかりと言い聞かせるのだわ!」
尻を隠すフェイ。どうやら俺の尻たたきが相当トラウマになっているようだ。実にいいことだ。妖精族が素直に言うことを聞いてくれるのなら、それに越したことはないからな。
「それじゃ、あたしの家族も呼ぼうかな? みんなドワーフ族の国には行きたくなさそうだったもんね」
「そうなのか? だが、この辺りにドワーフ族が満足するような鉱山はないんじゃなかったのか?」
「そうなんだよねー。だから提案だけしてみるわ」
どうやって他のドワーフ族と連絡を取るのかは分からないが、きっと俺の知らない連絡方法があるのだろう。深くは追求しないことにした。
シルフィーは腕を組んで考えている。エルフ族にはこの世界とは別の住む場所があるみたいだからな。こちらに来る利点はないのかも知れない。シルフィーの家族は安心するだろうが。
「まずはしっかりと下調べが必要だな。さっきも言ったが、もう滅んでいる可能性もある。状況を確認するまでは連絡はしない方がいいだろう」
「それならまずはこの集落に集まってもらうことにするのだわ」
「……長にはしっかりと話しておこうな?」
妖精族はドラゴン族に何かしらのイタズラを仕掛けた前例がある。それがどのくらい影響しているのか。今さらながら心配になってきた。
だが、今回、ドラゴン族を救った中にはフェイも含まれている。その辺りを話せばなんとかなるかも知れない。
翌日、朝食が終わるとすぐに昨日の話を長にする。妖精族が来ることを話したときにはちょっと、いや、かなり渋い顔をしたが、恩人でもあるため、嫌だとは言わなかった。
信頼関係はなきに等しいが、これからしっかりと築いてもらいたいものである。
ドラゴン族の集落をあとにして、さらに山を登って行く。山の頂上を目指す必要はないため、なるべくなだらかな場所を選んで進んで行った。さいわいなことに大陸の南にある山だったため、雪が積もっているようなことはなかった。
道中に現れる魔物や動物を倒したり、逃がしたりしながら山の
「見てよ、海だわ!」
「本当なのだわ。泳げないリリラの天敵ね!」
「ぐぬぬ」
何やらリリラとフェイが言い争っている。海か。初めて来たな。海にも魔物がいるのか? その辺りはこれから調査する必要があるな。その海には小舟のようなものが浮かんでいる。
「どうやらまだ滅んではいないみたいだな」
「そうみたいね。街並みは結構キレイな感じがするわ。貿易で栄えている国なのかしら?」
「そうなんじゃないか? 国というよりかは、どこかの領都のようだな」
「言えているわね。陸からこの場所を訪れるのは大変だから、放置されているのかも知れないわ。もしくは、手に入れる価値もないのかもね」
小国にはあの街しかなさそうだ。そして主な輸送手段は海のみ。確かに攻め込んでまで手に入れる価値は低いかも知れないな。そのおかげで今日まで小国として残っているのだろう。
滅んでもすぐにその情報が伝わってこなかったということは、海が使えなくなった可能性が高いな。小国にたどり着いたら、まずは海に関する情報を集めた方がよさそうだ。
それから数日をかけて山を下り、港湾都市へと到着した。
「なんだか建物の数の割には人が少ないような気がするな」
「確かにそうね。見てよ、空き家みたいだわ。あっちも」
「住人が逃げ出しているのか? よく分からんな。まずは情報を集めよう」
「ねえねえ、お酒、売ってるかなー?」
「……酒場くらいはあるんじゃないのか? それよりも、火薬の材料は集まらないかも知れないな」
「それは困る!」
そうは言ったものの、最初にリリラが確認したのは酒だよな? あまり困っているように思えなかったのは俺だけだろうか。そんなリリラを連れて街の中を歩く。建物はしっかりしているし、住むのにはよさそうなんだけどな。
「これは一体、どういうことなんだ?」
「冒険者ギルドが潰れているのだわ。残念だったね、イザーク」
ポンポンとフェイが肩をたたいて慰めてくれたが、あまりうれしくない。
最初からこの国に冒険者ギルドがないのなら”仕方ないか”ですむのだが、撤退しているとなると困ったことになるだろう。
それはすなわち、冒険者ギルドがこの国を見捨てたということになるのだから。
「隣の酒場もなくなってるー。ねえ、イザーク、もっと人通りがある場所に行こうよ」
「たぶん今俺たちが通っている道が、一番人通りのある道だと思うぞ」
大抵の街では、冒険者ギルドは大通り沿いにある。例外は王都や領都などの人が多い場所だけである。それだけ冒険者ギルドはなくてはならない施設なのだ。
魔物があちこちにいる世界で、それを退治する施設がない国は滅びるしかない。
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