第16話 情報収集
部屋にある二つのベッドを見てリリラが首をかしげた。
「ベッドが二つしかないってことは、イザークはあたしと一緒に寝ることになるのよね? だってあたし、小さいし」
「あら、何を言っているのかしら? リリラは寝相が悪いのだから一人で寝なさい。イザークは私と一緒に寝るから」
「なんでよ」
「当然よ」
二人が言い争いをしている。このままでは気まずい雰囲気のまま冒険者ギルドへ行くことになってしまう。こうなったら奥の手だな。俺は片方のベッドを押して、もう一つのベッドにくっつけた。
「これなら三人で寝られるな。宿を引き払うときに、ベッドの位置を元の場所に戻すことを忘れるなよ」
「さすがイザーク。頭良い!」
「真ん中の人が寝にくそうだけど……そうね、みんなで横向きに寝ればなんとかなりそうね」
シルフィーも納得してくれたようである。これで安心して出かけることができるな。戻って来たら一人いませんでしたじゃ困る。二人にくれぐれも出歩かないようにと念を入れて冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドは大通り沿いにあった。二階建ての木造の建物で、ずいぶんと年季が入っているようだ。ところどころが黒く汚れている。入り口のドアはなく、そのまま受け付けカウンターへとつながっている。
いくつもの丸いテーブルとイスを横目に、買い取りカウンターへと向かった。どんな依頼があるのかは帰りに見ることにする。今はお金の確保が優先だ。
「これを買い取ってもらいたいのだが」
そう言って冒険者証を見せる。すぐに確認が終わり査定に入った。Sランクの魔物の魔石なのだが、キレイに半分に割れている。それが査定にどう響くかだな。確認していた職員はそれがSランクの魔物の魔石であることに気がついたようである。
「失礼ですが、これをどこで?」
「両親の形見だ。どこでそれを手に入れたのかは知らない。お金がなくなってしまってな。手放すことにしたんだ」
「……そうですか。心中、お察しします。どうか早まった行動をすることのないように」
「肝に銘じておこう」
ウソである。だがしかし、何も知らない職員は良心的な態度になっていた。ちょっと心苦しいが、冒険者たるもの、ウソの一つや二つ、平気で言う者なのだ。
職員からお金を受け取ると、そのまま依頼書を見て回る。それで大体のことが分かるはずだ。
予想通り魔石の査定額は少し低かったが、三人でも三ヶ月は楽に暮らせる額だった。懐に余裕ができたことにホッと胸をなで下ろした。男たるもの、一芸は持っておくべきだな。
依頼の内容は魔物の討伐がほとんどだった。さすがは辺境の地。魔物の数には事欠かない。あとはチラホラ護衛依頼があるくらいだな。
シルフィーとリリラが目立つため、護衛依頼は引き受けることはできない。二人を置いて行けば可能ではあるが、それは二人が認めないだろう。もちろん俺も認めない。
冒険者ギルドにほとんど人がいないところを見ると、この辺りの冒険者はみんな仕事へ向かっているようである。残っている討伐依頼は難易度が高いものばかり。もしかすると、高ランク冒険者はそれほどいないのかも知れないな。
そのまま宿に戻る。途中で食べ物でも買おうかと思ったが、そういえばさっき色々と食べ物を買ったのだった。うまいもの探しは二人と一緒に行くとしよう。
部屋では二人が先ほど購入したものを食べていた。リリラにいたっては昼間だというのにお酒を飲んでいた。
「……リリラ?」
「ち、違うんだからね!」
「何が違うんだ。まっすぐに帰って来る必要はなかったな」
「まあまあ、そう言わずに。イザークの分もあるからさ~」
そう言ってコップを渡してきた。これだからドワーフは……どうしてシルフィーはとめないのか。非難するようにシルフィーを見ると、申し訳なさそうに食べ物を差し出して来た。どうやらおなかがすいていたようである。
「魔石は売れたぞ。これがそのお金だ。どうする?」
「たくさんあるわね。三人で山分けする?」
「そんなわけないでしょう。もともとはイザークが持っていたものだもの。イザークがそのまま持つべきよ」
「そういうことならイザークに任せるわ。どっちみち、あたしは人族の生活様式を身につけるところから始めないといけないからね。お金をもらっても使い道に困りそうだわ」
念のため聞いたのだが、やはり俺が持つのが良さそうだな。必要な物があればなんでも言うようにと言っておいたので、ひとまずは大丈夫だろう。リリラがお酒を要求して来たので、まずはそれを買いに行かなければならないな。
「冒険者ギルドでは何か情報は得られたの?」
「いや、今回は魔石を売りに行っただけの様子見だ。この街の冒険者ギルドの雰囲気を知りたかったからな」
「それで、どうだった?」
「あまり強い冒険者はいなさそうだ。依頼は討伐依頼がほとんどだった。俺たちならお金を稼ぐのはたやすいな」
魔石や魔物の素材の買い取りは随時行われている。力に物を言わせて適当に魔物を倒して、その戦利品を売りに行ってもいいのだ。いくらでも稼ぐことができる。
「それならお金には困らなそうね。情報を集めつつ、お金も稼ぎましょう」
「ねえ、イザークはどんな情報が欲しいの?」
「そういえば聞いてなかったわね」
宝石のように輝く二人の瞳がこちらを向いている。美しいな。どうしてこんなに美しい二人が俺なんかを慕ってくれるのか、本当に謎である。二人の命を救ったのは確かだが、それだけでこうもなるものか。
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