第17話 お金の使い方
どんな情報を集めているのか、か。確かに今は雲をつかむような状態だ。エルフ族とドワーフ族は救うことができたと言っても良いだろう。あとは精霊の森の消失や妖精種が消えた謎についてが気になるところなのだが、こちらは物語の中には直接出てこないのだ。
物語の背景でさらりと語られていただけなので、どこの森なのか、妖精種がどこにいるのかも分からない。だから地道な情報収集が必要になってくる。そのようなことを二人に話すと、真剣な表情をして考え込んでいた。
「精霊の森ねぇ。各地に点在しているから、すべてを回るのは大変よ?」
「知っているのかシルフィー? それならせめて範囲を絞り込まなければならないな」
「妖精種は精霊の森に住んでいるのが一般的だよ。だから探すなら精霊の森に行かないとダメね」
「ふむ、それならばまずは精霊の森から探してみることにするか」
シルフィーから精霊の森が色んな場所にあることを聞くことができて良かった。人族の間ではそのような森があることは知られていない。もちろん、おとぎ話の類いならいくらでも存在しているがな。
「人族は精霊の森のことを知らないの?」
「知らないな。その様子だとドワーフ族も知っているみたいだな」
「もちろんよ。私たちも元をたどれば妖精種だからね」
「そうなると、エルフ族も同じか」
「そうよ。人族だけが特殊なのよ」
それには何か理由があるのかな? もしかすると、人族だけは別の大陸からやって来たのかも知れない。平和なこの大陸に戦乱を持ち込んだ侵略者というわけだ。戦争好きなところを見ても、間違ってはいないのかも知れない。
「まずは地図が必要だな。そこから二人の話を頼りにある程度の目星をつける。それと冒険者ギルドでの依頼や情報から場所を絞り込む」
「依頼で何か分かるの?」
「近隣で何か異変があれば、冒険者ギルドからは調査依頼が出されるはずだ。それと地図とを照らし合わせて、精霊の森で何か異変が起きていないかを調べるのさ」
納得したのか二人がうなずいている。冒険者ギルドは人族特有の制度のようだ。それもそうか。人族はたくさんいる。それだけに色んな場所から仕事の依頼が舞い込むのだ。
母体数の少ない種族ではそのような制度の必要はないのだろう。
冒険者ギルドへ行くのは明日以降にすることにした。精霊の森のことは気になるが、どこにあるのか分からない。そして救えるかどうかも分からない。まずは自分たちのことを優先した方が良いだろう。
まずは買い物だ。二人を連れて街へと行かねば。そして人族の常識をたたき込まなければならない。特にリリラには絶対に必要だ。そう言うと二人はすぐに準備に入った。……そういえば一人酔っ払いが混じっているな。どうしよう。
見た感じ酔ってはいないようなので大丈夫かな? あの程度の酒はドワーフにとっては飲んでいないに等しいだろう。うん、深く考えたらダメな種族だな。
「準備ができたわよ」
「あたしも」
「よし。まずはリリラ、その場で片足立ちをしろ」
「なんで?」
意味が分からないながらも片足立ちするリリラ。安定しているな。問題はなさそうだ。リリラに酔っていないかを調べただけだと言ったら、「あの程度の酒では酔わない」と怒られた。あそこまで怒ることはないのに。
二人を連れて改めて街の中を歩く。この街に来るのは初めてだし、先ほども冒険者ギルドへまっすぐに行って戻って来ただけだ。観光などしていない。街のことを良く知らないのは二人と同じである。
「まずはどこに行く?」
「お酒!」
「酒はあとだ。荷物がかさばる。日用品で足りない物はないか?」
「そうね、石けんが欲しいわね。あとは厚手の綿織物がいくつか欲しいわ。三人になったことだし、少しは荷物が多くなっても大丈夫よね?」
シルフィーが俺とリリラを見た。エルフ族はあまり力は強くない。その代わり魔法がすごい。リリラはドワーフ族なので力がある。なので多少重たい物でも大丈夫だろう。俺にいたっては、これまで冒険者として生きてきた実績がある。重い荷物を背負って行くことなど朝飯前である。
「それじゃ、まずは日用品を買いに行こう。そこでリリラにお金の使い方を教えないといけないからな」
「人族のお店にどんな物が売っているのか楽しみだわ!」
「あまり期待しすぎない方が良いぞ」
大通り沿いの道を歩き、店を探す。質の良い店は大体が大通りに面したところに店を構えている。そんな話を二人にしながら進む。
最初に訪れた店で石けんやタオルを買うことができた。リリラにお金のことを説明しながら支払うと、お店の人から「お使いができて偉いね」と褒められていた。
俺とシルフィーは笑うのをグッとこらえていたが、リリラは自分が子供扱いされていることに気がつかなかったらしく、無邪気に喜んでいた。そのまままっすぐな大人に育って欲しい。
「次は鍛冶屋へ寄ろう。道具が足りていないんだろう?」
「うん。砥石を分けてもらえなかったからね。これはドワーフ族に伝わる由緒正しい物だから、ワーレン一家から出て行く者には渡せないってさ。ほんとケチなんだから」
ブツブツ言っているが、物作りの匠の集団であるドワーフ族で代々伝わる物ならば、そう簡単に外へは出せないだろう。親父さんが言うことは間違っていないと思う。
だがそれだけに、一体どんな砥石なのか気になる。オリハルコン製の武器も研げたりするのだろうか。
鍛冶屋へやって来たが、どう見ても俺以外は場違いな様子である。店主はシルフィーを見て動きが止まっていたし、リリラを見てちょっと困っていた。それでもリリラは何とか良さそうな砥石を見つけたようである。
「これにしようかな。まあまあだけど、これ以上の物はなさそうだしね」
「リリラ、あまり大きな声でそのことを話さないように。ドワーフ族が大事にしているような物が人族で使われているなんてことはまずないからな」
「そうなの? それじゃそのうちダンジョンに潜るしかないかー」
恐ろしいことを言いだしたリリラ。俺はそんなところには行かないぞ。危険なだけで、お宝なんてめったに得られないからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。