第15話 辺境の街

 それからなんとかリリラを説得し、人族の街にいる間は俺の妹ということにしてもらった。その代わり、「宿ではちゃんと恋人として扱うこと」と釘を刺された。これ以上話がこじれると先に進めないので、一応、了承しておいた。大丈夫かな? 色々と。


 準備と行き先を決めた俺たちはドワーフ族の集落をあとにした。俺たちが去ったあと、ドワーフたちは自分たちの国に戻ることになる。次にここへ来たとしても、無人の廃坑が残っているだけだろう。このまま問題なく物語が進めば、勇者の一行であるブラムたちが遺跡を求めてやって来るはずである。


 集落を出た俺たちは南に向かった。確かこちらの方面に辺境の街があったはずである。元々俺がいた街にはもう戻ることはできない。なぜならばブラムたちに遭遇する可能性があるからだ。


 表舞台から去った俺は、もう二度とブラムたちに合わない方が良いだろう。物語の中ではすでに俺は死んだことになっている。それなのに、生きてブラムたちと出会うことがあれば何が起こるか分からない。魔王を倒せない事態にでもなれば大変だ。それは困る。そうなるくらいなら、彼らを避けて移動するのが賢明だろう。


 さいわいなことに、これから行く街は物語の中でも最後の段階で向かう街だ。ブラムたちと出会う可能性はまずないだろう。そこで情報を集めつつ、お金も稼がなければならない。


 俺はもう独りではないのだ。嫁の面倒をしっかりとみなければならない。甲斐性無しだなんて言わせないぞ。

 山を下りて進むこと三日。辺境の街へたどり着いた。


「街についてこの魔石を換金したら、一回り大きなテントを買おうと思う」

「あら、そんなもの必要ないわよ。お金が持ったいないわ」

「あたしもシルフィーの意見に賛成~。別に狭くないし?」


 いや、あえて言わせて欲しい。狭い。三人で寝るには狭すぎると思う。リリラ、お前は自分の寝相の悪さを知っているのか? ちょいちょいケリが入っているぞ。痛くはないけど。


「それじゃあリリラ、夜、服を脱ぐのをやめろ」


 まさかリリラが裸族だとは思わなかった。酔っ払って脱ぐか、無意識に脱ぐかの違いである。朝起きてリリラが全裸だったときにはさすがに頭を抱えた。


「そんなこと言われても……知らないうちに脱いでるんだもん。どうしようもないよ」

「それじゃ、手足を縛って寝ろ」

「そんな~」


 口をとがらせたリリラをシルフィーがなでて慰めている。完全に姉のポジションである。そしてそれをリリラは受け入れていた。

 あのさ、キミたちは犬猿の仲の種族だよね? 種族の誇りはどうした。


「リリラ、ドワーフ族は恥ずかしがり屋の種族じゃなかったのか?」

「そうだけど……イザークには全部見られてるし、今さらじゃない?」


 そうなんだけど、恥じらいは持ち続けて欲しかった。女性を捨てるのはやめて欲しいところである。助けを求めてシルフィーに視線を送った。この数日の旅の間に、シルフィリアのことはシルフィーと呼ぶようになっていた。シルフィーいわく、そっちの方が親近感があって好きだそうである。


「リリラ、家にいるときもそうだったの?」

「ううん、そんなことなかったよ? きっとイザークの隣で寝ると、安心して脱いじゃうんだと思う」

「なんだよそれ……」

「それならしょうがないわね」


 なぜか納得するシルフィー。しょうがないのか。いや、そんなはずはない。シルフィーはリリラの巧みな話術にだまされている。俺はだまされないぞ。なんとかしてリリラの動きを封じなければならない。


 辺境の街には門番がいた。俺は冒険者証を見せて、シルフィーとリリラの入場料を支払った。やっぱりシルフィーの容姿は目立つな。門番が何度も見ている。街に入ったら十分に警戒しておかなければならない。

 シルフィー自身もかなり強いので、俺の力は必要ないかも知れないがね。


「ここが人族の街ね。大きいし、ウワサ通りたくさんの人がいるわ」


 リリラが目を輝かせて右へ左へと視線を走らせている。まるで田舎から初めて都会に出て来た若者のようである。……間違ってはないのか。その一方で、シルフィーはいつもと変わらない様子だった。何度か人族の街や村に行ったことがあるのだろう。例の姿を隠すネックレスも持っていたしな。


「ウワサ通り?」

「そうよ。人族は弱いから繁殖力が強いってね。イザークもそうだよね?」

「……否定はしないが、かと言って認めたくないものだな」


 確かにドワーフ族やエルフ族に比べると繁殖力は高いかも知れないな。まさか肉体的な弱さが原因だとは思わなかった。だが人族はその繁殖力ゆえに他の種族の土地をジワジワと奪いつつあった。それが原因で、今現在も地上からあらゆる知的生命体が失われつつある。


 そしてそれに反発したのが魔王である。魔王は同志を集めて人族に戦いを挑むことになるのだ。まあ、それは今は置いておいて。


「まずは宿を探そう。素泊まりなら今持っている金でもそこそこの宿に泊まれるはずだ。そのあと俺は魔石の換金と冒険者ギルドへ行ってくる」

「私たちは……行かない方が良いわね」

「そうだな。色々と厄介なことになりかねない。無事に金が手に入ったら、ゆっくりと街を見学することにしよう」


 そう言いながらリリラの頭にポンと手を置いた。リリラがうれしそうに顔をほころばせた。良かった。子供扱いするなとか言われなくて。

 本来なら冒険者ギルドに先に行って、どこかおすすめの宿を聞くのだろうが、あいにくそうはいかない。


 食料を買いながら店の店主に聞いて回る。買い物をしているので嫌な顔はされなかった。

 どのみち食料は必要になる。なんの問題もない。どうやら大通りから一つ入ったところにちょうど良さそうな宿があるようだ。店主にすすめられたままにその宿に向かう。


「どうやらここがその宿のようだな」

「うーん、ちょっと小さめ?」

「そうだな。泊まるだけだからな。こんなものさ。さあ、行こう」

「小さいけど、なかなか雰囲気は良さそうよ」


 シルフィーの言う通り、宿の中はキレイに掃除されていた。安い宿になると、掃除がされてなかったりすることもよくあるのだ。寝られるだけでもありがたやと言うことなのだろう。


 宿屋の女将に今日だけ泊まると言って一部屋借りた。案内された部屋は二階にあり、跳ね上げ式の窓が一つだけあった。ベッドは二つである。それで十分だ。なにせ俺たちには寝袋があるのだから。

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