第14話 作戦会議

 リリラは必要な物を取りに家へと戻った。そのまま兄弟たちにもあいさつをしてくるそうである。その間に俺たちは片付けに入った。とは言っても、シルフィリアは二日酔いなので俺一人での作業になる。


「手伝えなくてごめんね」

「気にするな。それよりも、シルフィリアがあんなにお酒を飲めるとは思わなかったな。俺も酒の量には自信があったんだがな」

「あれだけ飲んで二日酔いしてないんだから、十分、お酒に強いわよ」


 これはひょっとすると、昨日のシルフィリアはリリラに対抗していただけなのかも知れないな。普段はちゃんと節度を守ってお酒を飲んでいるような気がする。そうでないと、毎回、リリラと一緒に酒盛りされて”朝起きたら裸でした”という、刺激的な毎日を送ることになってしまう。


 それはそれで良いのだが、俺の理性がいつまで持つかは分からない。お酒って怖い。テントも狭いし、明日からは一人が見張りとして外に出るべきだな。

 テントを片付け終わり、シルフィリアが復活し始めたころになってリリラが戻って来た。ここからは作戦会議だ。


「改めて、これからよろしく頼むぞ、リリラ」

「あたしの方こそよろしくね」

「よろしくね。さっそくだけど、リリラは何ができるのかしら?」

「ハンマーでぶん殴れるわよ!」


 そう言って人の頭くらいなら簡単に割ることができそうな大きさのハンマーを片手で軽々と振り回した。さすがはドワーフ族。パワーがダンチである。そうなると前衛になるのか。それなら盾を持って欲しいところだな。


「リリラは盾は使えないのか?」

「使ったことないかな……」

「俺が教えるから試しに使ってみないか? 盾があるのとないのでは、安定感が大きく違うからな」

「うん。試しに使ってみる。手取り足取り教えてよね、イザーク」


 その顔はどこかイタズラっぽさがにじみ出ていた。どうやら俺をからかっているようだ。良いだろう。アヘアヘ言わせてやろうではないか。俺がひそかに闘志を燃やしていると、隣のシルフィリアは真剣な顔つきでアゴに手を当てていた。


「リリラは鍛冶仕事の方はどうなの?」

「う……その、まだ見習いなんだ。初めから終わりまで、一人で剣を打ったことはなくってさ。あ、でも、研ぎの仕事はやらせてもらったことがあるから、武器の手入れくらいならできるよ」

「それだけできれば十分よ。あとでイザークの斧を見てちょうだい。硬い物をたたいているから、刃こぼれしてるかも知れないわ」


 言われてみればそうだな。なぜか俺の持っている斧は壊れないと勘違いしていた。それもこれも、物語の中で武器が壊れることがなかったからなのだろう。この世界の常識では通用しないことが、普通にできると思っていた。

 これは十分に気をつけないといけないな。うっかりと足下をすくわれかねない。


「任せたぞ、リリラ。ここを離れたら、少し大きめの街に行こうと思っている」

「理由を聞いても良いかしら?」

「ああ、もちろんだ。正直に言うと、次に何をするべきかが決まっていないからだ。街で情報を集めたい」


 目を丸くするリリラ。対してシルフィリアは思案顔である。シルフィリアは俺の事情を知っているからな。リリラも旅の仲間になったことだし、話しておくとしよう。何か思わぬ情報を知っているかも知れないからな。


「まさかイザークが神の使徒だったなんて!」

「違うから。シルフィリア、余計なことを言うんじゃない。変な尾ひれがついたじゃないか」

「あら、私は本気でそう思っているわよ」

「勘弁してくれ。リリラもそんな目で俺を見るんじゃない」


 キラキラした目で見つめるリリラ。純粋すぎるだろ。もっと濁った目で見られる方が俺には性に合っている。視線に耐えきれなくなり目をそらす。シルフィリアは信者が増えてうれしそうである。


「それなら人族の街に行くしかないわね」

「シルフィリアには申し訳ないが、そのエルフ特有のとがった耳を隠すために、フードをかぶってもらうことになるな」

「あら、それなら大丈夫よ。私にはこれがあるもの」


 シルフィリアがペンダントを取り出した。それを首からさげると耳の形が人族とそっくりになった。思わずシルフィリアを二度見した。まさかそんなアイテムがあるとは思わなかった。エルフ族の技術力ってスゲー。


 俺に二度見されたシルフィリアは楽しそうにクスクスと笑っている。まるでイタズラが成功したかのようである。いたずらっ子はリリラ一人で十分なのだが。


「そんな便利な物があったのか。それなら問題ないな。そうか、人族の中にエルフ族がいないのはそれを使っていたからなのか」

「正解よ。これは私たちエルフ族が人族に紛れるために作り出したマジックアイテムなのよ」

「なるほどな。リリラはないのか? ほら、人族と同じくらいの身長になるアイテムとか」


 ムッとリリラのほほが膨らんだ。どうやら背が小さいことを気にしているようである。だってしょうがないじゃないか。本当なのだから。このまま連れて行くと、俺がそういう趣向の男なのかと思われてしまう。


「ないわよ、そんなもの。あたしたちはありのままの自分で十分魅力的だもん」

「そう言いながら、実際にありのままの自分を見てもらうのは恥ずかしいんだよな?」


 朝方、全裸で寝ていたことを恥ずかしがっていたのを思い出して、ついからかってしまった。だがそれがいけなかった。リリラの柳眉がグググと上がった。怒ってらっしゃる!


「ぐぬぬ、そこまで言うのなら、今ここで克服してあげるわ!」


 リリラが服に両手をかけた。慌てて止めに入るが見た目からは想像もできないほどのパワーで服をたくし上げていく。くっ、押し負けている。


「冗談だ、リリラ。俺が悪かった。だから服を脱ぐのをやめろ。ほら、他のドワーフたちが何事かって見てるぞ。シルフィリアも止めてくれ」

「全く、何をやっているのよ」


 二人がかりで何とか押しとどめることに成功した。リリラはハアハアと肩で息をしている。何という馬鹿力。見た目が子供だからと言って油断できない。そしてこの話題は禁句だな。そうなると、リリラをどうやって取り扱うかが問題だぞ。


「リリラの素性は隠しておいた方が良いと思う。人族の中にはめったにドワーフ族はいないからな。ごくまれに有名な鍛冶屋をしている者もいるが、基本的に会うことはないだろう」

「この姿だと問題があるの?」

「……それが、ちょっと人族の間だと、問題になりそうなんだよな。だからせめて、俺の妹ということにして欲しい。俺たちの子供にしては大きすぎるからな」

「俺たちの子供……」


 そうつぶやいたシルフィリアが真っ赤に染まった。そしてリリラが再び膨らんだ。

 あの、話が進まないんですけど。

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