第8話 西の鉱山へ
長とシルフィリアの母親にあいさつをしてエルフの隠れ里を出た。里を出て最初に目に飛び込んで来たのは大量の切り株であった。辺り一帯が切り株地帯になっている。これには驚いた。
「まさかこれは……」
「そうよ。あなたがやったのよ。これじゃさすがに森の守りは使えないわ」
「次からは善処しよう」
「次はないからね」
笑顔のシルフィリア。だがその瞳は暗い。これは本当に強化魔法を使ってもらえなさそうだ。何とかしてシルフィリアのご機嫌をとっておかなければならないな。
大量の切り株に見送られて西へと進む。不足していた野営の道具はすべてエルフの隠れ里でそろえることができた。これなら二人の移動でも問題ない。保存食もあるので、しばらくは食事も大丈夫だろう。
大量の荷物を一度に運ぶことができるマジックバッグがあれば良かったのだが、さすがに希少度が高くて、エルフの隠れ里にもなかった。やはりどこかのダンジョンを攻略して手に入れるしかないのか。まあ、なくても何とかなる。優先順位は低い。今はドワーフ族を救うことだけを考えよう。
それからはこの辺りの森に詳しいシルフィリアの先導で道なき道を進んで行った。そして二人での野営の初日、少し開けた場所を見つけてそこにテントを張った。かまどはシルフィリアがあっという間に魔法で作ってくれた。便利だな。
「夜の見張りはどっちが先にする?」
「あら、そんなの必要ないわよ。だって魔法が私たちの代わりに見張りをしてくれるもの」
「便利な魔法があるもんだ。そんな魔法、聞いたことがないぞ」
「精霊に愛されたエルフ族しか使えない魔法だもの。当然よ」
ちょっと自慢げにシルフィリアが胸を張った。たわわに実る大きな果実が大きく揺れる。だれだ、エルフ族はスレンダーな種族だなんて言ったやつは。全然そんなことなかった。そしてあれは柔らかくて張りがあるのだ。まさに神が作った神秘だな。
「それじゃ、夜はゆっくりと寝ることができそうだな」
「まだ本調子じゃないんでしょう? 無理をしちゃダメよ」
そう言いながらシルフィリアが体を寄せてきた。このままだとシルフィリアにダメにされそうな気がする。水を入れた鍋に火をかけながら、シルフィリアの腰を抱き、お湯が沸くのを待った。
それから数日後、目的地である西の鉱山が見えて来た。ただの岩山にしか見えないが、シルフィリアによるとこの場所にドワーフ族の集落があるそうだ。良く見ると、白い煙が上がってる場所があった。
「あの煙はだれかが煮炊きしている証拠だな」
「それか、採掘した金属を加工しているかね」
「こんな山奥にそんな設備があるのか?」
「ドワーフ族は何でも作るわよ。もちろん、自分たちの興味があればの話だけどね」
エルフ族とドワーフ族の仲はあまり良くないみたいだが、お互いにライバル視しているからなのか、妙にドワーフ族のことについて詳しかった。そうなると、あの白い煙は水蒸気なのかも知れない。
そう思っていたのだが、その白い煙はだんだんと黒い煙が混じるようになってきた。そして別の場所からも黒い煙が上がり始めた。何だか騒がしくなってきたような気がする。
「シルフィリア、何かあったみたいだ」
「そうみたいね。まさかこのタイミングで問題が発生するとは思わなかったわ。イザーク、あなた、呪われているんじゃないの?」
「……そうかも知れないな」
否定はできないな。エルフの隠れ里も俺が到着してからすぐに危機に陥った。今回はまだ到着していないが、すでに何かが起こっているようだ。俺が厄災を連れてきたと言われれば納得せざるを得ない。
「冗談よ、イザーク。ほら、急ぎましょう。今ならまだ間に合うはずだわ」
「そうだな、急ごう」
煙が立ち上る方向へと走る。だんだんと状況が分かって来た。昆虫型の魔物が子供を襲っている。いや、違うな。あの子供のような姿をしているのがドワーフ族なのだろう。見たところ、みんな薄汚れた姿をしている。
斧を振り下ろし、近くの魔物から倒していく。ドワーフ族も応戦しているようだが、大きな魔物に対しては苦戦しているようだ。シルフィリアは魔法を放ち、ドワーフたちの逃げ道をうまく作っていた。
「さすがはシルフィリア。これなら避難しやすいな。追いかけて来る魔物は任せておけ」
「お願いするわ。魔法は強力だけど、その分、地形を壊しやすいのよね」
山岳地帯で魔法を連発するのは危険だ。山崩れを起こしかねない。いざという時に備えて、温存しておく方が良いだろう。シルフィリアと共にドワーフ族の避難を手伝っていると、一人のドワーフ族の女の子が近寄ってきた。栗色の短い髪に、俺と同じような焦げ茶の目をした、ボーイッシュな少女である。
「何をしている、早く他のやつらと一緒に逃げろ!」
「あなたたち、強いんでしょう? あっちで強い魔物が暴れているの。何とかしてよ」
「あっちには何があるんだ?」
「鉱山の入り口があるわ。みんなそこで魔物が出て来るのを防いでいるの。でもキリがなくて……」
思わずシルフィリアと顔を見合わせた。どうやらこの魔物の騒動を引き起こしているのは、鉱山からあふれ出てくる魔物のようである。そうなると、俺の記憶にあるように、ドワーフ族は古代遺跡を発掘したのだろう。そしてそこにいた魔物が外へと出て来た。
「行くぞ、シルフィリア。穴を塞げば魔物も出てこられなくなるはずだ。魔法を使えばそれほど難しくはないだろう?」
「そうね、分かったわ。あ、でも、ドワーフ族なら爆薬を使えば穴を塞げそうだけど……」
「そんなものがあるのか。いずれにせよ、時間を稼ぐ必要があるはずだ」
「ゲゲゲ、エルフ族!」
シルフィリアの耳の長さに気がついたドワーフ娘がシルフィリアを指差した。ちょっとムッとした表情になったが、気にしないことにしたようだ。チラリとそちらを見ただけで、すぐに目を前に向けた。
「行きましょう、イザーク」
「ああ、そうだな」
「あ、あたしが案内するわ! こっちの道が近道よ」
ドワーフ娘が小道を駆けて行く。その方面にはいまだに黒い煙が上がっていた。
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