第二十三話:小休止(最初に重大なお知らせがあります)

 【お知らせ】

 

 いつも『無双の細道~科挙デスゲームに参加するので一句詠む~』をお読みいただき、本当にありがとうございます。

 物語の途中ではございますが、このたび皆様にご報告することがございまして、二十三話の前にお伝えさせていただきます。


 実は既に書籍化の話が!!

 という話は一切来ておりません、ご安心ください。


 そもそもこんなデタラメな話を書籍化しようって出版社がいたら大したものだよと皆様も考えられていると思いますが、せっかくそういう作品を書いているわけですから、もっと攻めたデタラメをしようということで今回決断いたしました。

 

 前回は天子が「第四試練は治試験だ」と言ったところで終わったのですが、実はその治試験編を省略いたします!!


 理由は簡単です。そろそろバトルシーンがないとダレるからです。作品を面白くするには、ここでダラダラ治試験をするよりもすっ飛ばして最終試験を始めた方が絶対いいからです!

 

 というわけで本来なら第二十六話にあたる話を今回の第二十三話としてお届けさせていただきます。


 所々、治試練編を読んでいないと分かりにくいところもございますが、どうかご容赦ください。

 また治試験編ですが、完結後の番外編『これが本当の治試験です!』でお送りさせていただく予定です。そうです、本当はこれがやりたかっただけです。

 

 それではよろしくお願いいたします。   タカテン

 




「――以上が今回のいきさつでございます」


 そう締めくくって長く白い髭を蓄えた老人が深々と頭を下げた。

 この老人の名は仙人。かつて天子が幼き頃に教育係を務めていた者である。

 お役御免となって久しく天子に会っていなかったので、さすがの仙人も少々緊張気味であった。

 

「ふむ。やはり芭蕉殿に任せて正解だったな。先生もそう思うであろう?」

「先生はおやめ下さい、天子様。今は一介の老人に過ぎませぬゆえ」

「いや、先生はいつまで経っても先生であろうよ。朕の気持ちも察してくれ」


 天子の御言葉に相変わらず優しい子だと仙人は目を細めた。

 

「それでその芭蕉殿はどうしたのだ? 一緒に雲に乗って帰ってきたのではないのか?」

「そのつもりだったのですが、拒否されましてな」

「ほう。何故に?」

「どうやら雲酔いする体質みたいでして」


 実はこの仙人、名前だけでなく実際に仙人である。故に雲を足代わりにする。

 しかしその運転はとんでもなくアクロバティックで、さすがの芭蕉も最初は喜んではいたものの、やがてあっさりギブアップしたのであった。

 

「ははは。芭蕉殿にも意外な弱点があったものだ」

「そうですな。ところで先ほどから気になっていたのですが、何故芭蕉殿と?」

「先生も気付いていよう、芭蕉殿は朕の懐で収まるような器ではない」

「つまり科挙に合格しても官吏は辞退すると?」

「ああ、この科挙は力試しだそうだ。だが、それがまた傑作でな」


 天子がもっと近づくよう仙人を手招く。

 言われたまま顔を近づけた仙人は、天子が耳元で囁く言葉を聞いて思わず「ほっほっほ!」と笑い声をあげた。


「それは本当でございまするか、天子様?」

「ああ、朕の目で芭蕉殿の頭の中を見たのだ。間違いない。どうだ、面白かろう? 長きに渡る科挙の歴史の中でもそんな目的の受験生は芭蕉殿が初めてであろうさ」

「でしょうなぁ。それで天子様はどうなさるおつもりで?」

「もちろん、合格した暁にはその褒美を取らせるつもりでおる」

「それはそれは大変ですなぁ」

「だが、朕も見てみたい。それは先生とて同じであろう?」

「ですな。ワシも見てみとうございまする」


 果たして見事科挙に合格した時に芭蕉へ送られる褒美とは一体なんであろうか?

 この時点では芭蕉を除けばこのふたりしか知り得ぬことなのであった。

 

 

 

 さて、仙人が数年ぶりに宮中へ姿を見せてから数日後。芭蕉も無事、都へ辿り着いた。

 まずは天子への報告が然るべきだと思うのだが、どうせ仙人が済ましてあるだろうと計算し、その前に長旅で腹が減った芭蕉はタダ飯が死ぬほどかき込める貢院の食堂へ。

 そこで既に戻っていた義忠と出くわした。

 

「おおっ! 芭蕉、無事に戻って来たか!」

「義忠! お前も無事でなによりだ! その様子だと熊は倒せたようだな」

「ああ、最後には覇王翔吼拳を使わざるを得なかったがなんとかなった」


 義忠に課せられた治試験は熊退治であったが、どうやらそれも上手くいったようだ。

 友との嬉しい再会に義忠は既に手を付けていたものだったが、構わず料理を芭蕉へと差し出す。

 それを芭蕉はやはりこれまたとりわけ構うことなくぱくぱく食べ始めた。

 

「……あ、芭蕉が戻ってきた」


 とそこへひょっこり顔を出したのはクゥである。

 

「空! お前までもう戻っていたのか!? え、試験はどうした?」

「……ん、なんとかなった」

「ウソだろう!?」


 芭蕉が驚くのも無理はない。

 空が天子から命じられた治試験の内容は「都の人たちを笑顔にさせる」というものであった。

 

 これがまだ芭蕉や義忠に与えられたものならばなんとかなろう。

 しかし、これまでずっと暗殺者として社会の闇で生きてきた空となると話は別だ。間違いなく難易度は義忠の熊退治よりもずっと上。下手したら空はここまでかと芭蕉は内心で思っていたほどだ。

 

「……なんで驚く? 空、やる時はやる」

「そ、そうか。凄いな。あ、それはそうとこれ、ありがとよ」


 芭蕉はあらかじめ畳んでおいた空のボロ布を手渡した。

 

「……役に立った?」

「ああ。まぁあ」

「……ん、それは良かった」


 正直なところ、このボロ布のおかげでとんだ勘違いをされたのだが、あえて言うまい。

 手渡されたボロ布を、すかさず頭からすっぽり被る空を見たらなおさらその気はなくなった。

 

「……じゃあ早速その借りを空に返してほしい」

「なに?」

「……天災の倒し方、ようやく分かった」

「ほう。それは俺も気になるな。良かったら俺にも教えてくれよ」


 ふたりのやり取りを黙って見ていた義忠が、堪らず横から割り込んでくる。

 

「……芭蕉に手助けして欲しい」

「そうだな。芭蕉の助力は欲しいところだ。で、具体的にはどうするんだ?」

「……だから芭蕉に助けてもらう」

「んん? ええっと、それは一体どういう意味だ、空? 芭蕉に助けてもらうのはいいとして、他に何か良い作戦に気付いたから言ってるんだろう?」

「……他に作戦ない。空が気付いたのは、芭蕉に助けてもらうってことだけ」


 ええっ!? と困った表情を浮かべる義忠。

 しかし、その傍らで芭蕉はニヤリと笑みを浮かべると

 

「それでいい。空、俺もその作戦に乗ったぜ!」


 なんてのたまうので、義忠はますます混乱するのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る