【短編】撲殺された主人公が転生管理の女神様に召還されて一緒に下界に行くまでのひととき

じょお

よくある異世界転生の舞台裏 〜とある転移者と担当女神の出逢いなど〜

ー 某月某日深夜・某所 ー


「おらっ寝てねーで立てよ!」


がっ、ごっ


腹に衝撃が突き刺さりその度に激痛が身体に走っていたが、気が遠くなると共に生きている証である痛覚も曖昧になりつつある。


「チッ…死にやがった」


「軟弱だな。最近の若者わよぉっ!?」


周囲に居た連中は手を出さない代わりに逃げ出すことを許さず、最初でこそ何とか囲いを突破しようと足掻いていた俺のことを蹴ったり肩を押したりして殴り役の目前に押し留めていた。


「…」


完全に沈黙した俺の身体を足で乱暴に半回転させて仰向けに起こし、反応をみる暴漢。


つんつん


「…」


指先で頬を突いた誰かが首の動脈の辺りを押さえて脈拍を診る。


「あ〜…」


気の抜けた声を出しながら目蓋を開いて持っていたライトを瞳に当てる。今度は瞳孔反応を診てるんだろう。


「死亡確定だな、これは…」


意識はあるんだが、俺は死んだらしい。これからどうしたもんか…そして、その後は余りいいたくない。聞いても気持ちいいもんじゃないだろうしな。唯、ヤクザ崩れのチンピラたちがやってる死体処理がどんなもんか…といえば想像に難く無いだろうとだけ。痛覚とか苦しいとか感じてたら気が狂ってただろう…それだけは確実に断言できる。



ー ?月?日?時・?所 ー


何やら暖かくて柔らかい場所。いつまでも寝ていたくて目を覚ましたくない。そんな天国のような場所に居るような気がする。主に後頭部が幸せな気がする。


「…さい」


(…ん?)


そんな中、珠を転がすような綺麗な声が聞こえた気がした。


「…ださい」


「…え、ダサい?」


聞こえた部分だけ復唱してみる。


「そんなこといってません!」


ややヒステリックに叫ばれて、と同時に頭が固い床?地面?に落とされ、激痛が後頭部に走る。まさに天国から地獄だ!


「いぅ〜!?」


ゴロゴロと転げ回りながら後頭部を両手で押さえる俺。そんな中で不自然な現象に気付く。


(痛い?…何故…確か、俺、死んだ筈だよな?)


と。



「は、はぁ…つまり、その…死亡が確定した者を無作為に選び、その中で資格が有る魂を持つ者に力を与えて管理している世界へ転生、或いは蘇生した後に転移させていると…」


そうそう、その通りですよ…と頷く女神。ちなみに語りかけていたのは最初だけで、臭い?と返した後はヘソを曲げてしまったのか殆ど身振り手振りだけで言葉を交わそうとしてくれない。


(う〜ん…)


まぁ意思疎通ができない訳でもない為、そのまま通している。つまり、携帯サイズのホワイトボードで筆談してる訳で…後ろに居るアシスタント役なのであろう、目の前の女神より少々幼いイメージの女の子が持ってる訳だが。


(何故ホワイトボード?)


と思わなくもないが。ちなみに次の説明文を一生懸命カキカキしてる姿は可愛いと思わなくもない。


「…で、転移するに当たって、スキルを選べと?」


コクコクと頷く女神(とアシスタントの女の子)…今回は転生という選択肢は最初から無い模様。ま、それも人生かと思い、書き出されたスキル一覧を凝視するが…


「えっと…」


書き出されたスキル一覧は次の通りだ。



選べる技能スキル一覧!


1.完全回避

2.完全防御

3.たわし

4.ランダムスキル

5.たわし

6.パジェロ

7.たわし

8.身体能力上昇(微)

9.不幸な目に遭う度に女神に逢える権利

10.たわし



ちなみに…ちなみにだ。ホワイトボードに書かれているその一覧は丸の中に円グラフのように書き込まれ、まるで往年のダーツで狙って景品をゲットするアレに酷似していた…某TFP2と…いや、もう、パジェロとタワシが入っている時点で!…後、ジィ〜っと見詰めていたら回転を始めだしたのだ!


「あの…」


と、言葉半ばで現れる3本のダーツ。まんまパクリじゃないかとおもったのだが、この時点で疲れ切っていた俺は…


「もう、どうにでもなぁ〜れっ!」


と思いながら…投げ槍に…投げるのはダーツだが…3本とも投げるのだった…全力で!



ー 女神視点 ー


「女神・ティアさま」


下級女神の1柱から報告が入る。彼女は最近上級天使から進化し、望んで女神候補として私の配下へと配属された者だ。物珍しいとは思ったが部下が居れば仕事が楽になり助かるのは確かなので拒否はしなかった。ま、まぁ使い物にならなかったらほっぽり出せばいいやと思ってたのは確かだけど、思ったより使えたので良かったと思っている。


「どうした?」


余り尊大にならない程度に。かといって友達に話すような気軽にもならないように気を付けて聞き返す。私の周りには参考になりそうな同僚が居ないから困るのよね…。皆んな偉くなっちゃって遠くの宮殿と見紛うような場所に移っちゃったし…はぁ。私?…見習い女神の学生寮…の管理人室で細々とお仕事しながら住んでたんだけど、


『いい加減、後任に仕事を譲って出て行きなさい!』


っていわれてね…。流石に女神なのにホームレスとか住所不定は不味いと思ったのか、倒れても不思議じゃない程のボロ屋を当てがわれたわ…しかも周囲には何もない丘の上の…眺めというか景色が良いのだけは評価できるかしらね?…勿論今もそこに在住よ。お仕事もロクなのも無いし、今やっている転生管理局の転生・転移者誘導係だって歩合制で神力を消耗する割にはお給金はの雀の涙、猫の額だし…


「ティアさま?」


おっといけない。つい過去の記憶に浸って現実逃避するのは悪い癖なのよね…直さないと思ってても中々ね。


「えっと…どうした?」


何をいい直そうかと思ったけど、そう大した言葉も思いつかなかった為、殆ど同じ台詞を繰り返す。私の語彙力ぅ〜!!


「はい…お仕事です」


「場所は?」


「地球です」


そして資料が手渡される。後は読めということだろう。


「…」


暫く黙読する。読み終えると資料は消失し、任務終了まで記憶として頭に留まることとなる。任務はお仕事の別称だけど…まぁそれぞれの女神の力量に応じ与えられたノルマともいえる。部下たる下級女神には上司の女神の支援をこなしていればおから規定の給料が支払われる。私が下級女神の時はそんな制度なくてアルバイト探してはあくせくと働いてたんだよね…今の子たちはズルい!(そのせいで本業である女神科の成績が振るわなかった…え?元々実力が無かったんじゃないかって?…そ、そんなことないもん!!)


「…あの?」


部下のヒルデちゃん…ブリュンヒルデっていうんだけど…の再びの突っ込みに


「はっ!?」


っと意識を現世に急いで舞い戻らせる。


「あ、うん!地球の日本ね!…予定時刻は?」


慌てて取り繕いながら記載の無かった死亡予定時刻を訊くと、


「たった今、ですね」


との返事に、私は大慌てで儀式魔法の祝詞ををちょっぱやで…早口言葉かっ!?…と突っ込まれる勢いで唱える羽目になった。いや、この世界と地球じゃ流れる時間が同じじゃないからね!



「ふぅ…危うく舌を噛み切るところだったわ…」


実は少し噛んでしまったので痛い。準備もしてなかったし、そもそもこの仕事場召喚魔法陣では余分な神力は禁止されている。転生・転移者とのコミュニケーションに使用を許可されている魔法のみ、使用はできるのだけど…


「召喚が成功しました」


「成功って…グチョグチョのドロドロじゃないっ!?」


どうやら予定より遅れてしまった為、死体が相当な期間経過したことにより、腐敗が進んでしまったようだ。


「それに何これ…土葬か水葬の風習の地方の出身なの?」


「いえ、そんな筈は無いですが…」


極めて事務的に受け答えするヒルデにやや辟易しつつ、流石にゾンビにはなってないがそのまま蘇生すると大変痛ましい結果になりそうな遺体の痛み具合に心を痛めるティア。尚、彼女はアフロディーティアが正式な名前であり、通称はティアで通している。お察しの通り、本来は美の女神の1柱であり現在の仕事は所持スキルや能力が生かされることはない。芸術系統の仕事は美の神・女神たちで溢れかえっており、滅多に引退する者が現れない為に職にあぶれている状態な訳だ。


「はぁ…仕方ありませんね」


畑違いの魔法を行使する決意をするティア。使えない訳ではないが、効率が悪い魔法の行使は神力をかなり消耗するのだ。


「…この者の姿を死後直後まで戻し給え」


しゅ〜…


ティアの身体から神力が抜け、転移者の身体が死後直後まで巻き戻る。それでも殴る蹴るの跡が痛ましく、あちこち腫れ上がっていた。


「なんと痛ましい…」


そう思ったがまだ死体では回復系の魔法は無効の為に続けて蘇生の魔法を掛けることにするティア。本来ならばここで魂に語りかけて転移か転生かを選択肢として問い、選ばせる必要があったのだが…慌てて蘇生した為に選択肢の1つを永遠に失わせてしまった。そして…


「このまま起すのも気が引けるわね…」


と、蘇生の後…回復魔法を掛けて怪我を全て癒やし、そのまま膝枕をした状態で目覚めを待ったが、中々起きて来なかった為に


「起きてください…」


と、なるべく優しく語り掛ける。


(こらそこ!笑わない!!)


後方からは部下であるヒルデちゃんが声を殺しながら笑っている。真後ろに立っているものだから全然その姿は見えない。神力がいつも通りなら見れるんだけど今日は時間遡行と蘇生、回復魔法と大盤振る舞いだったもんだから声を出すのも億劫だ。


(う〜ん、起きないわね?)


仕方無く再び語り掛けるティア。


「早く起きてください」


「…え、ダサい?」


一瞬固まるティア。再起動してから


「そんなこといってません!」


と、ティアは顔を真っ赤にして立ち上がる。勢いを付けて。さすれば当然の如く、膝枕で寝ていた彼は後頭部を


ごっ…


「いぅ〜!?」


と痛そうな音を立て、悲鳴を上げ患部を両手で押さえてゴロゴロ転がって悶えている。勿論後方で様子を見ていたヒルデちゃんの笑顔と声を押し殺した音の無い笑い声は絶好調だった…はぁ。



『…という訳です』


実は説明は身振り手振りでティアが説明してた訳ではなく、ヒルデがしていたのだった。ホワイトボードを使用して。ティアは説明してるつもりで身振り手振りは続けていたが…


「は、はぁ…つまり、その…死亡が確定した者を無作為に選び、その中で資格が有る魂を持つ者に力を与えて管理している世界へ転生、或いは蘇生した後に転移させていると…」


ヒルデに聞か…読まされた内容を自分なりに理解し、質問する彼。ちなみに彼は既に死亡し、死体が腐敗する程に時間が経過していた為に記憶は曖昧となっている。人間として生きていたらしいということは理解してるようだが、名前や何処に居たのか、何をしていたのかなどの記憶は酷く曖昧で思い出せないようだ。考えられるのは…


(あの酷い怪我…死因かな?)


恐らく殴り、蹴られた跡。彼は私刑リンチでも受け続け、その結果死んだように見受けられた。元々そんな治安の悪い場所で生きていたのか、或いは…


(暴漢にでも捕まって…かな?)


まぁ過ぎたことはいわない方がいいかなと思い直し、ヒルデちゃんの説明タイムが終わるのを待つ。彼女は…下界の者と接触したくないとかいって言葉を交わしてないんだけど、文字で交わしてたら一緒のような気もするんだけどねぇ~…まぁいっか。


そしてふと、彼女が所持しているホワイトボードを見てギョ!っとする。円グラフみたいに書いてある部分にスキル名の他にたわしとかパジェロとか私?と逢う権利とか…ななな、何?何なのそれぇっ!?


ぐるぐるぐる…


尚も回っている円グラフ部分。そして彼を見るとその手に現れるダーツ3本!


(えぇ~っ!?…これって…ちょおっ!!)


彼は持っているダーツを3本とも、そのまま片手を振り被って全力で投げたのでした…ヒルデちゃんの掲げたホワイトボード…その中でぐるぐる回っている円グラフ部分に向けて!


だだだんっ!!


ダーツが刺さる音とは思えない音を上げて、ホワイトボードに刺さるダーツ。そして刺さった場所は…


『結果発表です!』


だらららら~!


とドラムロールが鳴り響きます。ヒルデちゃんノリノリですわ…何でそんなにノリノリ?


『5.たわし』


だだん!


『4.ランダムスキル』


だだだん!


『9.不幸な目に遭う度に女神ティアさまに逢える権利』


どだだん!!



(…は?)


『いえ、そう何度も留守にされても面倒ですね。此の仕事はわたくしが引き継ぎますので、ティアさまはその殿方とご一緒に下界に降りて来て下さって結構です』


と、有無をいわさずにヒルデちゃんに背中を突き飛ばされる。私は彼の元によろよろとつんのめりながら歩き、


『では、ご機嫌よう…あ、出現位置はランダムに村か町の傍にしておきますので!』


といってたのに、何処ぞの森の中に出現した。いや、何となくそうなりそうな気がしてたんだけどね!?


ちなみに「ランダムスキル」は「生活魔法全般」だったので生きて行くには不自由が無かった…いや、ほんと。チートとかじゃないけど助かるわ…


私?…下界に落とされたら女神のチート魔法は殆ど封印されて、水属性の初級魔法しか使えなくなってたわよ…ほんと、誰の陰謀よっ!?


━━━━━━━━━━━━━━━

勿論、ヒルデちゃんですw

後、生活魔法のアレの主人公と彼は関係ありませんw

仕方なく、彼の寿命が全うするまで付き添って生きる羽目に…女神だけあって人間とは比べものにならない寿命を持つ彼女ですが、見た目を擬装するのは朝飯前なので!(火葬する地域だった為、燃やされる前に逃げ出したのは当然ですが!w)

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