5話目
「ねえ、クロスロードって何?」
ベッドに寝っ転がってスマホを触っていた妹がいきなりそう聞いてきた。
「パズルじゃないの?」
「それはクロスワードでしょ」
「なんだっけ?」
「クロスロードよ」
「クロスロード?」
言われても姉もなんだかぴんとこなかった。
「なんだろう、それがどうしたの?」
「うーん、なんだろうと思って調べてみたんだけどね、なんか色々出てくるもんで」
「へえ、どんな?」
「うん、まず最初はね、中古車屋のサイトが出てきた」
「は?」
「クロスロードって車があるらしい」
「ああ、それの専門店か何か?」
「うん、その車専門中古車屋だった」
「それじゃあその車の名前なんでしょう」
「うん、ところがね、次に出てきたのはゲーム」
「ゲーム?」
「うん、防災教育教材だって」
「防災教育教材?」
「うん、カードゲームで災害時にどうすればいいかを勉強するゲームみたい」
「へえ、じゃあそれじゃない?」
「それがだね、姉上」
妹はよっと上半身を起こし、スマホを示して続ける。
「今度出てきたのはアニメ」
「アニメ?」
「そう、アニメ。なんかCM用の短いアニメだって」
「へえ」
「その次はバイク」
「バイクの車種?」
「そういうこと」
「そんでさらに映画」
「映画まで」
「そう、映画まで」
妹は何かのCMであったような口調でそう言う。
「それからね」
「まだあるの!」
「あるのよ。次は国際貢献団体のパンフレット」
「なんだそりゃ」
「本当よね。そんでね」
「まだあるのか」
「あるある。次はドラマ」
「ドラマ」
「そんでもって、学校の名前、絵本のタイトル、それからそれから」
「ちょ、ちょっと待て妹よ!」
「何よ」
「君は根本的に何か間違えてるのではないか?」
「根本的に?」
「うん、どうやって調べてる?」
「いや普通にクロスロードって検索して」
「カタカナで?」
「うん、カタカナで」
「それ、いっぺんローマ字でやってみ」
「ローマ字?」
「ってか英語っぽく」
「英語っぽく……」
言われて妹がローマ字でなんとなくこれかなと「crossroad」と入力し、
「あ……」
と、黙り込んだ。
「なんか出た?」
「出た」
「なんて?」
「えっと、日本語にすると交差点とか岐路、分かれ道、だってさ」
「つまり、元々そういう意味があったから、それ使った商品だの学校だのがあったってわけね」
「そういうことみたい」
妹ははあっとため息をつく。
「最初からローマ字ってか英語で入れてみりゃよかったってことか」
「そうそう、君は最初のクロスロードでカタカナで調べるって選択をした、それがそもそも間違いの素だったわけだね」
「そうか最初のクロスロードで間違えちゃったんだね」
「お、うまいこと言うね」
姉もうむうむと頷いて見せる。
「そんで右往左往、十字路の上に立つ風見鶏みたいにあっち見てこっち見てしちゃったわけだ」
「そうみたいだね、って姉、詩人だな」
「ありがとう。そんで、なんでそんなもん調べてたのよ」
「うん、お題に挑戦短編小説書くってので『クロスロードの鳥』って言われたんだけど、クロスロードの意味が分からなくて、それで調べてたらなんぼでも出てくるもんで、それで」
「混乱してしまった、ってことか」
「うん」
「まあ意味が分かったら、とっとと短編でもなんでも書いたんさい」
「あい、そうします」
そうしてやっと進む道を見つけた妹は、せっせとお題に沿った小説を書き、参加することができたとさ。
めでたしめでたし。
※検索の部分のみ、ほぼ実話です
「クロスロードの鳥」5編(第31回) 小椋夏己 @oguranatuki
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