4話目

 私はこの世の始まりから終わりまでを見つめる者。

 私の足元には十字路が見下ろせる。

 ほら、今日も誰かがやって来たようだ。


 男が一人、胸を張って尊大な態度で十字路に向かって進んでくる。

 十字路の真ん中でぴたりと止まった。


 男の右手には何かのスイッチが握られている。

 なんとなく物騒な感じがする物だ。


 男はゆっくりと右を見た。

 右はそのスイッチを押す道だ。

 もしも押してしまったら、その先に道が続くかどうかも分からない。

 危険な道。

 もしかすると男の望む方向に進む可能性もないことはない。

 もしかしたら、それで自分は世界を手に入れるかも知れない。

 そうは思うが、思い切って右へ進む決断はなかなかできるものではない。

 

 左の道はスイッチを手放し、両手を上げて前に出ていく道。

 もしもその道を選べば自分は全ての力を失う可能性がある。

 自分を恐れる者たちまで牙をき、多くの先達がそうだったように、命まで奪われるかも知れない。

 だが今の時代だ、もしかしたら静かに一線を退き、静かに余生を送れるかも知れない。

 そうは思うが、思い切って左へ進む決断はなかなかできるものではない。


 男はじっと十字路の真ん中に立ち止まる。

 ずっとずっと右手のスイッチをちらつかせながら、強引にまっすぐまっすぐ進んできた。 

 前に立ちふさがるものは踏みつけ、焼き払い、そうして真っ直ぐ進み続けてきた。

 真っ直ぐ進み続けられると信じていたのに、ここに来て計算違い、今まで踏みつけられていたものが鎌首をもたげ立ち向かってきた。


 ゆっくりと男の右手が上がりスイッチを見つめる。

 

 私は息を飲んでその男をじっと見つめている。


 私は準備せねばならぬのだろうか。

 終わりの時が来るぞと告げなければならないのだろうか。


 今までにも何度も身構えたが、幸いにしてそうはならなかった。

 今度もなんとか乗り切ってほしい。

 この男の歩みを誰か止めてほしい。


 この世の終わりを告げる時など告げたくはない。

 グリンカムビは軽く翼を広げ、悲しそうに首を軽く上下し、悲しそうに薄くうめいた。

 

 





 

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