18.これが日常になった(終)
紗良さんの問題が解決し、俺は日常を取り戻した。
……一週間だけだけどね。
「あ、あれ? また真っ黒になってしまったわ」
「な、なんでよ!? あたしちゃんと見てたのにーっ! なのになんでこんなことになってんのよぉぉぉぉーーっ!!」
なぜか俺の家のキッチンで、紗良さんとアスカさんが料理の練習をしていた。
同級生の美少女二人のエプロン姿は目の保養になるのだけど、「なんでまたうちにいるの?」という気持ちの方が強かった。ていうか聞いたのに流された。弱い自分が恨めしい。
漂ってくるのは食欲をそそる香ばしい匂い……ではなく焦げた臭いだった。どうやらまた失敗しているようだ。また、というのが悲しいところ。
「普通の卵焼き作ってたはずなのになんでちょっと目を離した隙に焦げてんの? 一瞬だよ一瞬っ。そんなすぐに焦げるわけないじゃん……意味わかんないよ」
「元気を出してアスカ。失敗してもまた挑戦すればいいじゃない。大切なのは諦めない心よ」
「失敗してんのは紗良だかんねっ!」
アスカさんが叫んだ。心からの叫びだった。
朝早くからアスカさんは紗良さんを指導していた。なのに一向に改善の兆しが見られない。ちなみにもうお昼の時間帯である。付き合ってあげているアスカさんの方が根性あるなぁと思うのは俺だけだろうか?
紗良さんの料理下手は才能と言ってもいいのかもしれない。ダークマターを生み出す才能。そんなこと面と向かって口にすれば命の危機になりかねないので絶対に言わないけど。
「ねえ二人とも」
俺が声をかけると二人して振り返る。
紗良さんは嬉しそうに微笑みながら。アスカさんはどんより疲労を隠さないまま。俺はたぶん普通の表情をしている。普通ってのはいつも通りってこと。
「俺腹減ったんだけど、適当に何か作るからそこどいてもらってもいい?」
俺の家なのに断りを入れている。立場どうなってんのって聞きたいが、ちゃんと気負うこともなく言えているからいいのだろう。
むしろ「どいて」と普通に言えていることが変化の証なのだろう。
相変わらず紗良さんとアスカさんは俺の家を訪ねてくる。それだけじゃなく溜まり場にしている。
そんな無遠慮な二人に慣れてしまったのか、俺は紗良さんにもアスカさんにも遠慮がなくなっていった。
躊躇うことなく話せるようになった。美少女が傍にいても必要以上に緊張しなくなった。いや、紗良さんとアスカさんに対してだけかな。
気がついたら、俺達は本当に友達になっていた。
「和也くん」
「ん?」
男らしく適当チャーハンでも作ろうかと準備していると、紗良さんに呼ばれたので顔を向けた。
少しだけ印象の違う微笑みを浮かべる紗良さん。その頬が少しだけ赤くなっている気がした。
「私がちゃんと料理ができたら、初めては和也くんに食べてもらいたいわ」
「つまり毒見ですね」
「毒のように和也くんをしびれさせてあげるわ」
それは料理漫画みたいに美味しさが伝わるようなリアクションをしろってことだろうか。美味しければしてもいいけどね。美味しければ。
「で、アスカさんはなんでこっち見ながらニヤニヤしてんの?」
「えー。紗良とカズっちがニヤニヤさせるようなことしてるからでしょ」
金髪ギャルの言うことはわからんね。もっと他のことを言えばいいのに。
まあいいか。二人は俺を待っている。俺が作ったチャーハンは、ちょうど三人分だった。
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