聖なる夜(後編) Byふぁーぷる

 夢を見ていた。


 心底、心が疲れての眠りは早く深い。


 夢を思い出す。


 祭りか?


 目の前におっさんが現れる。


 ニマ〜っとした表情から人懐っこい感じがする。


 ア!ひょっとこのお面の顔だ。


 ふんどししめ縄姿でにじり鉢巻の太鼓腹のおっさんが

 <ズンズン ズン>と踵を上げてまた下げてと上下に

 踵を上げ下げしてリズムを取り出す。


 そして手拍子<ホイ!ホイ!ホイホイホイ、ホイ>


 踵<ズンズン> 


 手拍子<ホイ、ホイ、ホイホイ>



 何だか俺の身体も踊り出す。


 <ホイ!ホイ!ホイホイホイ、ホイ>


 リズムが乗って来たら<バ〜ン>とおっさんが枕を体の

 前に突き出す。


 あれ!いつの間にか抱えていた枕が無い。


 おっさんが枕を <くるりくるり> と表、裏、表、裏

 と回し始める。


 表「おはよう」の文字の黄色いアップリケ。


 裏「おやすみ」の文字の黄色いアップリケ。


 表、裏、表、裏 <くるりくるり>


 表、裏、表、裏…


 回るたびに目が枕の文字に釘付けとなる。


 ひょっとこおっさんの姿も視野から消える。


 黄色い文字が交互に繰り返される。


「おはよう」


「おやすみ」


「おはよう」


「おやすみ」


「おはよう」


「おやすみ」


 声が聞こえる。繰り返される言葉。


 頭の中に直接響く。


 彼の山里の優しき民が何故この様な汚れ場に

 居る。


 長い付き合いの良き民じゃ。


 これを見よ!


「おはよう」、「おやすみ」の回転が加速する。




 泣いている。


 泣いている俺が見える。


 これは姿じゃ無く心の中が見えている。


 空っぽ…。


 空虚…。


 反して姿は彼女と楽しく会話し楽しく遊ぶこの

 世の春を謳歌する幸せ一杯に見える。


 なんで心と姿が真逆なんだ。


 上部で楽しく、心で泣く。


 理解できない…。


 輝かしい未来なのに…。




 優しき民よ。


 これを見よ!


「おはよう」、「おやすみ」が逆に回転し始める。


「おやすみ」


「おはよう」


「おやすみ」


「おはよう」


「おやすみ」

 …




 あ、彼女だ!


 今夜と同じ服装だ!


 え?


 特急に乗っている姿が見える。


 ※ほんと可愛いな〜


 鞄をガサゴソしだした。


 ※忘れ物じゃないだろうな〜大丈夫か


 見たことのない小物入れを手に取る。


 中から鏡と口紅?


 ※化粧なんてした事ない、田舎出身の学生で〜す。

 ※それでもいいですかって言ってたのにな〜


 4人掛けのボックス座席で真正面に人が居るのに

 お構い無しに念入りに口紅を塗っている。


 口紅のノリを良くするためか何度も唇をパクパク

 させてる。


 ※正面に人が居るのに恥ずかしいぞ!おい


 駅に着いたのか、身支度をして急いで電車を降りる。


 駅の看板が見える。


 あれ?


 最寄駅より一駅前だ。


 改札を出て駅の駐車場の一番奥の暗がりに向かう。


 黒いクラウンが止っている。


 中はスモークガラスで見えない。


 慣れた手つきで助手席を開けて乗り込む彼女。


 ※なんかヤンキー仕様の車やな〜


 乗り込んだ途端、<ガッ>と運転席から抱き寄せられて

 胸を鷲掴みにされる。


 彼女は嫌がるどころか、更に密着する。


 ※俺、何を見てる?


「ね、抱いて」 


「脱げよ!」


「はい」


 躊躇なく服を脱ぎ始める。


「おいそれ邪魔」


 <ういーん>と窓を開けて彼女が外に放り出す。


 ※それ俺の花束…。


「お前、ほんと好きものだな」


「俺も忙しんだぞ」


「毎月毎月、帰って来ては抱けとはな」


「だって寂しいんだもん」


 深夜なので車での騒ぎも大きく響く。


 お構い無しに騒ぎまくる事一時間。


 ※俺は騒ぎをずっと見てた。

 これは俺の知識を超える常識外れの蛮行だ。




「家まで送るぞ」


「家には帰らないわ、親には帰省しないと言ってるから」


「お前な〜親が泣くぞ」



 クラウンは俺の花束を踏みにじって駐車場から出て行った。




 トントン。


「ちょっと君」


「こんな所で寝ていると凍え死ぬぞ」


 駅員さんの声で目が覚める。


「すみません、ちょっと疲れてまして直ぐに駅を出ます」


「大丈夫だね、気をつけて帰りなさい」


 駅員さんは遠ざかって行く。




 眠っていたのか。


 それにしてもインパクトのある夢だった。




 立ち上がろうとした時、向こう側のホームに

 ひょっとこおっさんが立っているのが見えた。


 声が頭に響く。


「青春は苦いの〜、ただ えげつない 時もある」


「お主は人が良過ぎる」


「己の眼の前でしか判断できないのはちと不安じゃの」


「こちらを確りと見よ!」


 ひょっとこおっさんが顔に手を当てる。


 <パカリ>と顔が外れる。


 ひょっとこ顔はお面だった。


 下から現れたのは、何十、何百もの眼。


 <うわあああ〜>


 それを見た瞬間、耳鳴りで耳が裂けそうになる。




 駅のホームのベンチには大きな枕がポツンと

 残されていた。




 〜○〜

 俺の故郷の山里には百眼様の伝承があり氏神様の

 ように崇められている


 不思議な事にあのホームでの出来事以来、

 俺は居ながらにして人の動向を見る感覚があり、

 人付き合いも裏まで見通した感じで洞察出来てる様に

 思う。


 今の彼女が走って来る。


 彼女が一時間前から待ち合わせ場所にウキウキして

 立っていた居た事は知っている。


 ※わざわざ少し離れてから走って来るなんてしなくて

  いいのに。


「待った?ごめんね、あたし忙しくてね」


「ね、あたし図書館行きたい」


 ※お金ない俺を気遣ってる。


 俺は図書館で隣り合って座る彼女の清廉な

 生き方をページをめくる様に読んでいる。

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聖なる夜  Byふぁーぷる ふぁーぷる @s_araking

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