第五話
その日は、五時間目と六時間目が無かった。
昼休み中に始まった『米軍発表』のせいだ。米軍が唐突に会見を開き、『敵対的な宇宙人の存在を観測した』と、全世界へ発表した。
スマホで速報を知った生徒から騒ぎが広がって、教室が大騒ぎになったあたりで、担任の北倉がクラスへ戻ってきて、授業の中止を宣言した。
俺はスマホの回線を持ってないし、その宇宙人に殺されかけたばっかりだったから、騒がなかった。金ヶ崎はどういうわけか、この米軍発表を事前に知っていたらしい。何者なんだかな、アイツ。
教壇に立っている担任の北倉も、雰囲気が浮ついていた。
「歴史が変わる瞬間を、見ておきなさい」
陰気で覇気のない女教師はそう言って、教卓前でノートパソコンを開き、教室の俺たちへ見せてきた。
大多数の生徒は、その小さい画面を近くで見ようと、教卓前へと押し寄せた。席を立っていないのは、俺と嵐山。そしてなぜか鰐渕だけだった。鰐渕は、心ここにあらずといった感じで、机をぼんやり眺めていた。
ノートパソコンにはテレビの生放送が映っていた。テロップには、『官房長官緊急会見』とある。水色のカーテンの前で、ハゲ頭にメガネのショボいおっさんが、必死に原稿を読んでいた。
「先だって米軍は、『敵性宇宙人の存在』を公表いたしました。わが国としても、この有史以来の異常事態に先立ち、あらゆる国土防衛の手段を取らざるを得ないと、判断する次第であります。よって、先の通常国会にて根拠法が成立した、害獣駆除を専門とする特殊部隊『ベスパ』を急遽、任に当たらせるよう……」
冴えないオッサンの会見は淡々と続く。そのボソボソ喋りが三十分ほど続くと、もう俺は丁度いい感じに眠くなっていた。
「金ヶ崎官房長官の会見途中ですが、ここで新たに専門家をスタジオへお呼びしました。画面切り替わります」
アナウンサーの読んだ人名を聞いて、途端に目が覚めた。
金ヶ崎ィ? 偶然に同姓なワケない。セーフハウスを強奪されたパパとやらは、あのオッサンだってのか。
テレビでは宇宙人の専門家とやらが、もったいぶった仕草でロズウェルの真実だとかアポロ一号の謎だとか、意味わからない話を延々と始めた。人選間違えすぎてね? 誰だよこんなバカ連れてきたの。
その話に飽きたのか、北倉はノートパソコンを仕舞ってしまった。そして焦点の合ってない目で、俺達の顔を眺めて言う。
「世の中はこれから激変してゆくでしょう。けれど、あなたたちが学生で、生活が保障されている事には変わりない。それを胸に刻んで、勉学に励みなさい」
HRが終わっても、いつものガヤガヤ感は無かった。誰もが無言で席を立ち、夢を見ているような顔で帰路につく。皆、不思議でたまらないのだろう。非日常が襲い掛かってきても、日常は全然変わっていないから。
嵐山は去り際に、俺の席へメモを置いていった。
『1700 学習棟自販機前』
学習棟の自販機前で、俺は暗記カードを捲りながら時間を潰した。それしかすること無い。
六週目に差し掛かったころ、校舎のチャイムが鳴り、金ヶ崎だけがふらっと現れた。
「アンタと連絡するのめんどいわ。今どきスマホも持ってない高校生って、アンタくらいじゃない?」
「捨て子だから、スマホの回線を買う金ねえんだよ。野良WIFIに繫ぐジャンクスマホなら、いくらでも持ってるけどさ。なんなら回線くれ」
「あー……考えてやるよ」
金ヶ崎は一枚の写真を見せてきた。そこに映っているのは、大きく白い、恐竜のようなZ型の橋だった。見間違えようもない。予知の時に見た、鰐渕が飛び降りる橋そのものだ。
「これだ! すげえ! よくわかったな!」
「東京圏でZ型のトラスを持ち、10月に薄紫のライトアップで照らされる橋は、この東京ゲートブリッジしかない。アンタの予知を読み取ってから、あたしだって色々と下調べはしてたのさ」
「あとは、この橋で鰐渕を助けるだけでいいんだな」
俺は楽勝気分で聞いたが、金ヶ崎の表情は渋く硬い。眉間には深いしわが寄っている。ババアの踵のひび割れのように深い皺だ。
「誰がババアの踵だ埋めるぞ。我々ベスパの救出作戦を、カイブツが妨害しない訳ないじゃん。奴らの目的は、鰐渕さんの身柄なんだからね。そのためにカイブツの産みの親、『セイジン』までが出張ってくるなら、パラレル空間だけでなく現実空間での交戦も有りうる。そんなに楽できねえよ」
「わかったわかった。じゃあ嵐山と俺は、今後どうすればいい」
「命令。ベスパの作戦が準備完了してから、アンタにはもう一度死期を見てもらう。もしかしたら、我々の救出作戦が影響して、全然違う死期に変わっているかもしれないからね。それまでアンタは、カオルとひたすら訓練しな」
結局、俺はもう一度、鰐渕の手を握って、彼女の死に方を見ることになるらしい。
もう一度見る事になる死に方が、幸せな波風立たせないものに代わっていたらいいけど。
「ところで、嵐山はどこだよ。ここに来いって言ってたのに」
「ベスパの装備を基地で試してもらってるのさ。ついでにアンタの装備品も用意してあるし、これから向かうよ」
そう金ヶ崎が言い終わらないうちに、遠くの方から悲鳴とクラクションが聞こえてきた。
その騒がしさは徐々に近づいてくる。そして向こう側の校門から、ブッシュマスターが校庭へと乱入してきた。
暴走車のボンネットには、六角形を組み合わせたようなスズメバチのマークが新しく貼ってある。
また乗せられるのかあ。それに。
ブッシュマスターは相変わらずの、天にも上る乗り心地だった。
ただ、慣れてきたからか、ちっさい覗き窓から風景を眺める余裕は出てきた。
ブッシュマスターが辿り着いた先は廃ビル……というか廃止された郵便局のようだった。その地下へと続くスロープへと乗り込んでいく。乾いた銃声が耳へ飛び込んでくるようになる。
地下の射撃場は、元々駐車場だったっぽい。だだっぴろい駐車場は、小窓の付いた柵で二分割されているだけで、いかにも即席な感じだった。銃声の中心に居るのは、嵐山だ。柵の前で銃を構えるアイツは、柵の向こう側の数えきれないターゲットを無心で撃っている。
嵐山もナントカアーマーを着込んでいた。黒と黄色で色分けされた、軍服のようなワンピース。あれだ。ゴスロリ軍服ってやつ。ごついコルセットとブーツが辛うじて防御力有りそうだ。この仕立ては、金ヶ崎の趣味に違いない。軍服の下半分はフレアスカートで、色んな銃口が見え隠れしている。嵐山は、どうやってもスカートに武器を仕舞いたいらしい。どういう拘りだ?
柵に引っかかっている四角いショルダーバッグを見つけた。俺はそれを掴み上げて金ヶ崎へ聞いた。
「いいバッグだな。フリマサイトで売っていいか? 俺こういう粗大ゴミ拾ってきて売ってんだよ」
「そんな悪行を自慢げに言うな。それがアンタのスクランブルアーマーさ。脈拍呼吸センサーを介して、緊急時に自動で装着される。装甲はダイラタンシー流体装甲と爆砕シールド。コンクリートもブチ破れる人工筋肉と、C4Iによる情報システムも完備、ガス攻撃や拷問に耐える冬眠モードも備えてる」
金ヶ崎の説明を聞き流して、ショルダーバッグから伸びている赤いヒモを引っ張ってみる。
「グゲャツ!」
するとバッグからドロドロの黒い液体が噴き出して、俺の全身に吹き付けられた。
「ヒヨリちゃんの有難い説明を最後まで聞けや。変な悲鳴しやがって」
黒いドロドロは一瞬で固まる。気づけば俺は、分厚いトレンチコートを着込んでいた。胸や肩にはプロテクターが入っていて、左腕には小さなシールドまでご丁寧についている。
「俺のはゴスロリ系じゃないのか。左腕の鉄板はなんだ?」
「お前のゴスロリのどこに需要があんだよ、ガチ地雷だわ。そのシールドが爆砕シールド。衝撃が加わると爆発して、敵の攻撃を無理やり相殺するのさ」
「……そんなもん、俺自身も爆発で吹き飛ばないか?」
「爆発範囲は130度で、衝撃は流体装甲で中和される。実験では大丈夫だったから、実戦でも多分大丈夫っしょ」
「多分ゥ?!」
全周防護スクランブルアーマーは、なぜかサイズがぴったり丁度良い。いつ俺の体型を採寸したんだ? 気色わりいな。とはいえ、身に着けてみると、気分がアガる。左肩のフックにぶら下がったベレー帽をかぶって、俺はちょっと気取ってM10を構えてみる。
M10の追加アクセサリーも、金ヶ崎から受け取った。真っ黒な万華鏡みたいなサイレンサーが銃口先に付いて、銃口の付け根には、左手で握れる小さいストラップがぶら下がった。……まあ無いよりマシな感じ。
プログラムを実行する組立ロボットのように、嵐山はターゲットを正確無比に撃ち抜いている。
「なあ金ヶ崎……先輩。こんな武器持ってて、どうして俺たちは逮捕されないんだ」
「アタシたちベスパは、対宇宙侵略の特殊部隊だもん。ベスパのハンターは総務省の付属機関職員として、武器の携帯使用が法律で許されてる。逮捕も起訴も有り得ないね」
法律の解説は、こんなギャルから聞くものじゃない気がする。
「そんな法律、ニュースではやってなかったぞ」
「今の日本では1年に百件以上の法律ができるけど、その内容をすべて知ってる人って、どんだけ居るのさ。それに忖度ってやつで、目立たない様に立法してもらったのさ。アタシの読心能力があれば、できないことも出来ちゃうし」
「読心で具体的に何したんだよ」
「反対議員の心を読んで、隠し事を押さえた上で、さりげなくお願いしただけだけど。賄賂とか愛人とかスパイとかさ。にしても全員、心の中で『優秀な俺は何をやってもいいんだ!』って思ってたね。よくねえよ。さっさと死ねよ。迷惑だから。ま、限界もあって、ベスパの予算も人員30人がやっとくらいしか獲得できなかったけど、上出来か」
「よくそんな活動する元気があるな、アンタ」
「だってアタシが動かなかったら、カイブツがエスパーやその家族を襲って、殺していく悲劇を止められなかった。その被害が非エスパーや人類そのものまで侵す前に、どうにか阻止したかったのさ」
返事に迷った。どういうわけか、俺はカイブツの襲撃対象になってこなかったけども、他のエスパーの中にはカイブツに襲われて、家族と一緒に命を落としてゆく人もいるってのか。そんな事も、聞いたこと無かった。
「アンタの心意気は分かったけどよ。よりによって俺ら高校生が、銃で宇宙人と闘う必要あるか? 大人のエスパーも居るんだろ? そいつらにやらせろよ」
「居ない。エスパーの誕生が確認できたのは、17年前。その第一世代はアタシたちに他ならない。アタシたちより年取った人間は、カイブツの侵略に対抗できない。このままだと殺されるしかないのさ」
「ヘビーな話だな。カイブツの産みの親はホントに宇宙人なのか。その、セイジンってのは宇宙人のことだろ?」
「セイジンと我々は読んでいるけれど、おそらく人じゃない。肉体を持たない異次元の生命体が、カイブツという三次元の手下を生み出して、何らかの理由で人類を襲っている。そう、ベスパ本部は分析している」
「つまり幽霊みたいなバケモンと闘ってんのね。勝算云々の話じゃあないな」
最後のターゲットを撃ちぬいて、嵐山はトリガーガードにひっ掛けた人差し指で、FDC9を器用にくるくる回転させる。目を細めて、金ヶ崎は言う。
「でもさ、アタシたちの最終兵器彼女は、勝つ気でいるよ。鰐渕救出作戦の上がり役。カイジン撃墜の絶対エース。それが我らの切り札、嵐山カオルなのさ」
嵐山は俺達に振り向き、FDCを片手で畳みながら、自信ありげに笑って見せた。
「もちろんさ、ヒヨリさん。生き延びるためには戦わないといけない。ボクは昔からそうだった。ヒヨリさんに見つけてもらえるまで、父さんの教えと風の声通りに、独りで戦ってきたんだ」
「対カイブツ仕様の9パラ爆装弾はどーお? 威力三割増しだよ」
「グッド。弾道はホローポイント弾と変わらない。これなら実戦でも問題ないよ。けれど、やはりフルサイズの小銃弾は使用許可が下りないのかな。アサルトライフルの方が威力良いのに」
「警察も自衛隊も、我々ベスパの軍拡は断固拒否でね。当分はサブマシンガンと拳銃で、カイブツ討伐の実績を積んで行くしかねえわ。それ以外の必要なものは、このヒヨリちゃんが何でもかき集めて来てやんよ」
「ありがとう。じゃああさばたけの訓練に入ろう」
急に矛先が向いて、俺は固まる。え、やだ。
「なんでぇ? 訓練って必要か? 銃って、引き金引くだけの武器だろ?」
「ふむ。あさばたけ、クイズを出そう。銃は剣槍弓どれが進化した武器だと思う?」
「どうした急に。弓だろ? 矢じりが銃弾になったんじゃねえの」
答えると、嵐山はチッチッチと舌打ちをしながら、人差し指を振る。むかつく。
「違うよ。弓は曲線を描く武器で、大砲へ進化した。直線的な攻撃を行う銃の先祖は、槍だよ。銃は火薬の力で、槍ふすまの切っ先が何千メートルも先に届くようになった槍なんだ。だから槍と一緒で、銃も訓練しないとマトモに扱えない。引き金を引くだけの武器というわけではないよ」
「つまり、俺は訓練から逃れられないってことか?」
「もちろん。ハンターキラー戦術のバディに死なれたら、ボクも困るからね」
それから俺はひったすら、銃の基本動作という地味な訓練を、何十回も繰り返した。
銃の構え方から、弾が銃に残っていないかのチェックとか、安全装置の確認、弾詰まりの解除方法とか色々。そんな細かい作業を、FPSやソシャゲのキャラクターはやってないのにな。
「銃撃戦では、常に優位に立つよう行動しなきゃ死ぬ。そのために、銃で執り行える全ての動作を覚えてないといけないよ」
嵐山はFDC-9の安全装置を解除しながら、弾を装填して構える。一連の動きを、よどみなくやってのける。
「俺が鍛えても、結局死ぬだけじゃねえのかな」
「がんばろ? あさばたけはセンスあるもん。ヒヨリさんは全然だもの。ヒヨリさんの首から下は、全く役に立たない」
金ヶ崎は急にトランシーバーへ、英語で話しかけ始める。それ聞こえてないフリだろ。白々しい。
その時。背中に妙な熱気を感じて、俺は振り返った。
いつの間にか、俺のすぐ真後ろに南田が居た。思わずのけ反る。
「あのお。おつかれさま。サンドイッチ、いる?」
だけど彼女は、にへらと腑抜けた笑顔で、タッパーに入れたサンドイッチを、おずおずと差し出してくれた。
「おお、いりますとも。いらないわけないじゃないですか」
南田はよくわからない事を喋ってるけど、とてもいい人だ。だって飯をくれる。
「ニワトリ以上イヌ以下の思考回路が駄々洩れなんだよ」
金ヶ崎の苦言は、耳にしなかったことにした。
訓練開始日は金曜日で、土日は休みのはず。……結局、土曜も似たような訓練で丸々潰れて、日曜日は疲労で縄文荘から一歩も動けなかった。拾ってきた机に向かって、鰐渕から借りた単語帳を繰り返し書き写してたら、日が暮れた。ライフワークの粗大ゴミ拾いとフリマサイトの更新は、臨時休業だ。
月曜日。相変わらず宇宙人騒ぎは収まることが無い。ニュースは宇宙人まみれ。世界各地で自暴自棄になった人々による暴動が起きているらしい。けれど俺はそれどころじゃあなかった。ヘッドセットを付けていたのに、発砲音で耳がビリビリと痛い。発砲の残響が、まだ頭の中でグワングワン鳴っていた。
そんなすぐれない体調で授業に臨んでも、得る物があるかは分からない。
なぜか隣席の鰐渕も、ぼーっとしていた。休み時間に俺は思わず聞いた。
「体調悪いのか」
「大丈夫です。ちょっと悩み事がありましてね」
「そっか。なにで悩んでたんだ?」
「それは秘密です。それより単語帳は、ちゃんと使ってくれましたか?」
「まあまあ覚えた、まだ一週間たってないけどさ」
「でしたら、また放課後に小テストやってみましょうか? 単語帳の問題集を持ってきたのです」
なんだか、急に話を逸らされた。
そういうわけで、この前と同じ図書室で、二回目の自習タイムが始まった。宇宙人ショックのせいか、図書室に居る生徒は俺と鰐渕……そして、隣に座るすまし顔の嵐山だけだった。相変わらず顔が良い。
「なんでお前もテスト受けてんだよ」
「ボクも学生だよ? 勉強は本分です」
嵐山は小声で言い返して、その長い三つ編みおさげを指で弾く。 その余裕な態度はハリボテじゃなかった。
ニ十分後、俺の採点した嵐山の答案用紙は、マルで埋め尽くされていた。
俺の答案用紙は正解七割くらいだったのに。
頭が良けりゃ銃の腕前も良い。ついでに顔も良い。その嵐山は微笑みを浮かべて、ダブルピースしてくる。腹立つゥ。
「ボクの勝ちー」
「は? 勝負したとか一回も言ってねえんだけど」
「常在戦場だぞ。いつ何時、勝負は始まるか分からない。油断したらずっと負け続きだ」
「急に鎌倉武士みたいな事言う女子高生嫌だわ」
「おっさん染みてる君にだけは言われたくないな。そういう評価を頂いたぞ?」
「……う、うるせーしらねー」
俺たちの小声でのやり取りを眺める鰐渕は、不思議そうに聞いてきた。
「仲良かったんですね二人とも」
「腐れ縁でね」
俺が吐き捨てても、嵐山は真顔でやりかえしてくる。
「つれないなあ。手繫いだ仲じゃないか」
「ややこしいこと言うな。厄介事ばっかに巻き込みやがって」
「どんな厄介事ですか」
と鰐渕。あんたの救出作戦だよ。そう言いたかったが、言葉を濁す。
「モノを貸したり借りたり、あと使い方を習ったりな。宇宙人騒ぎよりは、よっぽどか楽な厄介事さ」
そのモノは銃弾のことで、宇宙人にぶちのめすための訓練……とまでは言わない。嘘じゃないぞ。
「宇宙人騒ぎ……ですか。あれは本当だと思います?」
深刻そうな面持ちで、鰐渕は聞いてくる。上手く話を逸らせた。
「本当だろな。嘘だったらいいけれど、真実を嘘と信じ込めるほど、俺はバカになれない」
「認めたくはないけど、そうですね。恐ろしい。あんな妄想が、ホントになってしまうなんて」
窓枠へもたれ掛かり、鰐渕は消え入るようにつぶやいた。今度は、俺が鰐渕の言葉尻を掴んだ。
「妄想? なんのことだ?」
だが鰐渕は、取り繕ったような笑みを見せる。
「あら、つい口が滑りました。ごめんなさい。説明の難しい話ですから、またいつか」
笑みの裏に、錆びついた釘のような刺々しさを感じる。拒絶だ。これ以上の追及は、危なそうだ。
「鰐渕さんは宇宙人が怖いのかい?」
俺が困っていると、知ってか知らずか嵐山が割って入ってきて、話を切り替えた。
「幽霊よりも怖いですね。もし目の前に現れたらどうしようかと」
「大丈夫。その時はボクの名前を呼んでくれ。宇宙人を塵にして吹き飛ばしてやるよ。誰にも負けないパワーを、ボクはちょっとばかし持ってるんだ」
嵐山は自信ありげに、指鉄砲をバンバン撃つ仕草をする。鰐渕はしょうがないように微笑んだ。
「頼りになりますね」
なあ鰐渕。嵐山はマジで吹き飛ばそうと思ってるから、冗談じゃねえぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます