第4話弥三郎
土間のひんやりとした感触が、裕二へと伝わり体温を下げる。
「あがんな」
弥三郎の低く、重い声が冷たさを余計に感じさせる。
裕二は、体を起こし、畳敷きで行燈があるだけの質素な空間に上がった。
弥三郎の前に座ろうとした時だった。
「…あ」
重苦しい空気を破ったのは腹の虫だった。昨晩から何も食べていなく我慢が出来なかった。
弥三郎の口元が緩んだ。
「そうか、怪物だろうと異人だろうと腹にいるものは同じか。待ってな。」
そう言うと再び外へと行ってしまった。
裕二は、空気を読まない腹の虫に感謝をしつつ畳に腰を下ろした。
(木の枝で斬られるなんてありえないし、タイムスリップじゃなくてまさか異世界に飛んだのか?)
不安と焦燥感に駆られる中で必死に考えを巡らせていた。
考えているうちに、弥三郎が帰ってきた。
「おぅ、ちったぁ落ち着いたかい。」
少し機嫌が良くなっていた。冷たさが先程よりもマシになっていた。
弥三郎は、裕二の前に座ると外から持ってきたものを差し出してきた。
「おめえさん、好き嫌いは言わせねえよ。腹ごしらえからだ。」
それを見て裕二は思わず口の中が唾液で溢れた。
寿司だ。おにぎりぐらいのシャリに分厚いネタが乗っている。裕二がいた世界と違う見た目だが腹が減っていれば関係なかった。
「ありがとうございます。」
さっきまで殺されかけた相手に感謝を伝えると、タイ、アジ、コハダと次々に喰らっていく。
弥三郎は、絶食していた犬のような裕二に少しあっけをとられた。
「馬鹿野郎。俺の分も入ってんだよ。」
そう言い、無言の中2人は食事を終わらせた。
「弥三郎さんって良い人ですね」
食事が終わると裕二は涙目になりながら言った。
「泣くなよ情けねえな。まぁ、人情無くて人にあらずってな。そいで、おまえさん何処の人間だ?」
弥三郎の顔が引き締まった。ほころんだ空間が張り詰める。
「実は……。」
裕二は、自分のいた世界の話をした。そして、教科書で習った過去の時代背景とは違う事から異世界なのではないかと言う事も。
「なるほどな。そうすっと、お月さんと目が合って違う世に来ちまったって事か。理解できねえな。」
弥三郎の顔は段々と険しさを増すだけだ。
裕二は、そんな空気を変えようとした。
「そういえばさっき、木の枝を当てたら首が切れたんですけど、あれは僕の世界にはありませんでした。一体どういう仕組みですか?」
弥三郎の自己顕示欲と面倒見の良さをついた質問だった。
「そうか、おまえさんの世界では、まだ刀を持っていたんだったな。」
「まだ?」
「ぁあ、この国も昔は帯刀していたんだが
城主様が教えてくれたんだよ。
不思議な力”りき”を。」
サラリーマンが月を見たらちょんまげと出会った件 @dasaimusi
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