第3話出会い

 「…い……おい…。…おい、兄さんどんな所で寝てんだよ!!」

活気のある声と揺さぶられたせいか裕二は、目を覚ました。

(ぁあ、自転車に乗って帰ってる途中で……転んだのか…もう…朝か…。)

朧げな中、断片的に残る記憶をつなぎ合わせる。

「ぁあ…すいません。寝てたみたいで…。」

目を擦り、体を起こしつつ、声の男に目をやった。

「あれ、珍しい髪型してますね…。ぁあ、役者さんですか。」

裕二は、男の風貌に違和感を感じ、あたりを見回す。舗装のされていない土の道。教科書で見た様な気がする、新しいが古めかしい建物が並ぶ。まるで数百年前に来た気持ちを持たせる。

(なんだ。丁髷?旅籠屋?…まだ夢か…)

もう一度目を閉じようとする裕二に、男は顔を真っ赤にさせた。

「何が”役者さんですか”だよ!俺の何処がそう見えるってんだ!!!兄さんの方がよっぽど狂ってるよ!大体なあ何処の国の格好だい!まぁ役所に突き出せば分かる。」

男の怒りも、夢だと思う裕二には効かなかった。

(腰に木の枝差した侍なんてダセエな…なんでそんなに啖呵切れるんだよ)

「まぁまぁ、そっちこそ落ち着いてよ。とりあえずほっといて。仕事で疲れてるんだから。夢の中ぐらいゆっくりさせてくれ。」

なめきった裕二の態度が怒りを加速させる。

「我慢ならねぇ。」

男は、差していた木の枝を抜き、裕二の首元に当てた。

その瞬間、裕二の身体中の毛穴が逆立ち、強烈な寒気が走った。

(いや…夢でもやり過ぎだろ。)

”斬(ザン)!!”

男が言葉を放つと、木の枝を当てた先からスーと液体が垂れた。

裕二は、目を疑った。

(血?!痛い?!…待って、夢じゃ…)

驚く裕二に、男は名乗る。

「目ぇ覚めたか?この弥三郎を愚弄して首が繋がってるだけでもありがたく思いな。」

裕二は自分の立場を理解した。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。いや、待ってください。とにかく話を…話を聞いてください。」

さっきまでとは違い、小鹿のように怯える裕二の目を見て弥三郎は枝を引いた。

「ふん、まあ聞いてやらんわけでもねぇ。ただ、嘘は言うんじゃねえよ。」

(かと言って、コイツの格好で店まで歩くわけにもいかねぇ。)

弥三郎は目の前にある自宅の戸を引き、裕二を投げ入れた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る