第2話月を見たら…

「んんー、終わったー。」

裕二は、達成感に満ちた顔を中心に体を仰け反らせる。

(これで鳥谷部長にゃ何も言わせねえ)

宿敵を思いながら、そそくさと帰り支度を始めた。

 ビルを出て、自転車籠に鞄を乗せ、サドルに跨る。

「真っ暗じゃねぇか。」

日を越して、裕二を照らすのは、ぼんやりとした街頭と堂々とした月明かりだけだ。

(そうえいば、月に笑われるんだっけ。三日月でもいいのかな。魔法…使いてぇな。)

睡眠不足の裕二は

(顔があるように見えなくもない)

さっきまで疑っていたはずなのに、欲望がこじつけてしまう。

「ニッ!笑えこの野郎!」

日中なら確実に捕まっていた顔を空に向けた。あたりに静かさが広がる。

「笑うわけないよな」

一度顔を下ろし、もう一度見上げた。

「…ぁあ?」

思わず、ハンドルがぐらつく。

三日月が段々と拡大していき近づいてくる。顔のように思えたこじつけがハッキリと見えて来た。

 驚いた裕二は転倒し、意識を失う。


ーーー三日月は、笑った。



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