サラリーマンが月を見たらちょんまげと出会った件

@dasaimusi

第1話 噂話

 三鷹裕二(みたかゆうじ)が働くのは、机と椅子が綺麗に羅列した数人規模の小さなオフィスだ。聞こえるのは、スーツ姿の男女がキーボードを叩く音と客先への電話。だった…。

 淡々とした空間を動かしたのは、シワの増え始めた中年顔の男だ。彼は、白髪混じりの頭をのけぞらせた。

「三鷹く〜ん、まだ資料出来てないの、一昨日頼んだよね?」

嫌味が視線を集めながら裕二をチクリと刺す。

(出来るわけないだろ、家庭のストレスを俺にぶつけるんじゃねぇ)

同じく裕二も顔をのけぞらせた。

「すいませんー鳥谷部長、明日には終わらせます。」

口撃を受け、モチベーションの無い労働が思わず溜息を吐かせる。

そんな裕二を見て隣の席にいた女が小突いてきた。

「三鷹くん、気にしなくていいわよ。鳥谷部長だって仕事しないでネットサーフィンやってるんだからね。資料作ったって自分の手柄みたいに言うのよ、やるだけ損よ損。」

甘やかす女の声に、裕二は余計にやる気を無くした。

(それも、そうだな。明日出来ればいいし、のんびりやろうか)

目の前にある液晶は、資料作りとは無縁のサイトを見せていた。

”本当にあった都市伝説”

「あ、三鷹くん!知ってる?その都市伝説。」

隣の女は、またしても仕切りを迂回して話しかけてきた。

「いえ、でも子供じみてますよね。”月に笑われると魔法が使える”なんて。」

裕二は小馬鹿にして鼻で笑った。

「そう?じゃあ、そんなサイト見なきゃ良いのに。でもね、稚拙な方が信じたくならない?童心をくすぐられるって言うか…」

子供みたい事を言いながら屈託のない笑顔で笑った。

「三鷹ー、女と喋ってる暇があったら仕事しろよ、仕事。何があっても今日完成させろよな。」

中年顔は一層険しさを増していた。

(最悪だ。鳥谷の野郎、魔法が使えたら吹っ飛ばす。)

裕二は、さっきまで観ていたサイトを閉じて仕事を始めた。



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