第26話

予想通り、池綿は部屋に戻った。

南は、金田と佐伯が部屋を出たあとに、女性2人がドアの前を通ったことを確認していた。

「金田、影野。画像送ったぞ」

「届きました」

佐伯は、2人のうち1人を見たことがあるようだ。

「この人です、池綿が前に部屋に呼んでいた女性です」

「今、ふくちゃんが調べてるから。影野。髪の長い女性のほうだ」

「了解。ちなみに、池綿の部屋のカーテンは閉まったままで、動きは不明です」

そのとき、佐伯のお腹がなった。

「お腹、空きましたよね」

「はい。何か買ってきますね。金田さん、何がいいですか?」

「牛タンがいいです」

「分かりました」

佐伯は、軽食を買いに部屋を出ていった。


事務所では、ふくちゃんが牛タン弁当を食べるのを中断し、急いで髪の長い女性を調べていた。

「出た。美田ひとみ、ですって」

南が駆け寄る。

「池綿と同じ事務所だな」

「タレントの卵ですね」

「事務所の後輩が不倫相手ってか?」

「これ、一晩中見ている必要があるわね。朝まで同じ部屋にいたことを証明しないと」

「そうだな」

「あっ」

影野からだ。

「どうした?」

「写真……」

「影野?」

「あ、はい。今、池綿の部屋のカーテンが開いたんです。女性と外を見ていました。写真、ちゃんと撮りました」

「それ、2ショットで撮ったよな?」

「はい」

「よし、いいぞ影野」

「影野くん、成長したわね」

ふくちゃんにも褒められた影野。しかし、不倫の確実な証拠を掴みたいものだ。



その後、池綿と美田の動きがないまま、深夜0時を回った。佐伯はすでに夢の中だ。

ピンポーン……

インターホンが鳴ったのは、探偵事務所だ。

「お待ちしていました」

「すみません。撮影が押してしまって、こんな時間になってしまいました」

「どうぞ」

ゲストの登場だ。

「あら、河合さん。仕事だったの? ご飯は?」

「まだ食べてないんです」

「ほら、牛タン弁当。温めるから、待っててね」

ふくちゃんは、まるでお母さんのようだ。

「待っている間に、見てほしいものがあります」

南は、河合に美田の写真を見てる。

「ご存じですか?」

「知らない方です。でも、見たことあるような……」

「タレントの卵みたいです」

「すみません。仕事でお会いする方すべてを覚えていないのです」

「それはそうでしょうね。ドラマの撮影となれば、多くのエキストラもいますからね。我々がお聞きしたいのは、池綿と付き合いのある方かどうかです」

「この方のお名前は」

「美田ひとみさんです」

「聞いたことないです」

「分かりました」

ふくちゃんが、河合に弁当を渡す。

「はい、どうぞ。こんな時間まで大変ねー」

「ありがとうございます。でも、皆さんも夜遅くまで」

「山場なのでね」

「ってことは」

南が河合を呼んだのには、理由があった。

「河合さん。今、池綿さんがこの写真の女性、美田さんととあるホテルの一室にいます。美田さんは、池綿さんの事務所の後輩のようです。例えば、演技指導や相談ということも考えられますので、不倫の確定には至っていません。そこで、河合さんにお願いがあります」

「はい」

「池綿さんに、今何をしているのか連絡していただいてもよろしいでしょうか。池綿さんの言い訳を知りたいんです。もちろん、正直に美田さんといることを言ってくれればいいのですが」


河合は、池綿に

『今、撮影終わったんだ。共演者のことでちょっと悩んでいて、話を聞いてほしいんだけど、もう寝ちゃった?』

とメールした。


「お弁当、いただきます」

「どうぞ」

「探偵さんって、すごいですね。短期間に、ブログの何百件という店舗をまわり、泊まっているホテルを見つけるなんて」

「おかげで外出ばかりになったもので、妻に浮気を疑われましたよ」

「それは、大変でしたね。あ、この牛タンおいしいです。この弁当もブログに載っていたんですか?」

「これはですね、昔から、調査の山場にはメンバー全員で牛タンを食すという、うちの伝統です」

「いいですね」

「それにしても、さすがにこの時間に返信がくるかどうかですね」

「返信はきます。いつもなら、ですが」

南は、影野に部屋の電気がついているかを確認する。

「電気はついています。寝ているかどうかは分かりません」

河合は、突然のことだが、この状況を心配する。

「ふたりで、何をしているんでしょうね……」

ゆっくり、箸を置いた。

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シークレットスクープ 柚月伶菜 @rena7

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