第25話

同時刻、事務所では南とふくちゃんが、ホテルに忍び込んだ金田の連絡を待ちつつ、金田と佐伯の話で盛り上がっていた。

「金田さんが消極的なら、佐伯さんがぐいぐいいかないと」

「本当に好きな子にはな、ぐいぐいいけないんだって」

「いざっていうときに、何で引き下がるのよ」

「引き下がってるわけじゃなくて、様子を見ているんだよ」

「様子を見る必要ある?」

「嫌がっていないかどうか確認しないと」

「そこまでいっているだから嫌なわけがないじゃない」

そのとき、金田から連絡が入った。

「映像、いきましたか?」

「はいよ。きてるよ」

「53階の部屋から、池綿を確認しました。533号室に入室。池綿はひとりです」

「引き続き、池綿の動向と他の客の様子を」

「了解」

「あ、金田。泊まってきていいからな」

「はい。ずっと見張るつもりです」

南は呟いた。

「そういう意味じゃなくてさ」


金田の連絡は、影野にも届いていた。実は影野は、遠くのビルから田淵ヒルズトーキョーを見ていた。

「53階の533号室は、カーテンが閉まっています。僕もしばらく待機します」

「よろしくな」


南とふくちゃんは、夕飯の牛タン弁当を食べ始める。

「何で3つ?」

弁当が3つ用意されていたことに、ふくちゃんが疑問を抱く。

「あとで、ゲストが来るから」

「ゲスト?」

金田から連絡が入る。

「池綿が動きました。私も着いていきます」

「はいよ」


金田は、佐伯とともにエレベーターの停止階を確認し、同じ50階へ向かう。

「50階って」

「レストランのフロアです。ちょうど夕飯時ですから、食事でしょうか」

50階で、店を選んでいるように池綿を探す。

「おいしそう」

「うーん、違うなあ」

なかなか、池綿は見つからない。休憩スペースに腰を下ろす。

「ドキドキしますね、こういうの」

「ええ。失敗が許されないところまできているので」

影野から連絡が入る。

「金田さん、池綿を発見しました。フレンチの店だと思うんですが、窓際で店員と話してます」

「夕飯ですか」

「いや、席には座ってないんですよね。あ、今カウンター席に座りました。池綿はひとりです」

金田は、佐伯に池綿がフランス料理屋にいることを伝える。

「どうするんですか」

「しばらく待機します」

ここで安易に同じ店に入ってはいけない。これから行く先で、何度も会うことになれば、金田の存在を池綿が気にしてしまうからだ。

今は、影野が池綿をマークしている。影野の見えないところで金田が動く。調査は、チームワークが大切だ。

「金田さん、池綿が店員から弁当を受け取っています。会計をして、そろそろ店を出るかと」

「了解。部屋に戻るかもしれませんね」

「会計が終わりました」

少しすると、池綿が店から出てきた。金田と佐伯が、着いていくと影野が驚く。

「池綿の部屋、電気がついてます!」

その報告に、南が焦る。

「金田、ドアスコープのカメラ、録画したか?」

「はい」

「さすが」

南は、安心した。

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