12話 先へ

【ごめんな】

「……またね」

 ホヤケは大きく手を振り、笑顔を見せてみた。

 瞬きをすると同時に、世界と彼女は花弁となって散る。

 そして真紅の花道にいたのはホヤケの母親だった。

「こんにちは。いえ、おはよう?取り敢えずお疲れ様です、ナイシン君」

「これから、俺は振った相手の親と面会するわけか……」

 そう考えると荷が重い。

 驚くほどにホヤケの母親は静かに笑っている。心の準備ができるまで待ってくれているようだ。

「ちゃんと、過程を経てわたしの娘を振ってくれてありがとうね」

「感謝されるなんてな」

「これで娘も新しい道に進めるし、今までの日常が無くなるわけじゃないから。あなたは色んなものを娘に与えてくれた。それこそ、『自分が存在するだけで力になる』ってことを」

 彼女と共に手に入れたモノだ。俺も持っていなかった。

 だから、振った行動に後悔してる自分がいる。だけど、俺は──が好きなんだ。

「ゆっくり歩きながら喋りましょう。今回は走らなくて大丈夫だから」

 万寿さんの隣を歩く。

「なんで、こんなところにいるんですか?」

「わたしの役割はちゃんと学んでるかを確認することなの。友達に頼まれたの」

 完全に記憶を取り戻していないから、その友達が誰を言っているのかわからない。

「多分、あの世界のナイシン君は会ったことないよ」

「あの世界?」

「絶対に記憶にもない人物でずーとわたしたちを助けてる英雄さん。いや、他の人からすれば魔王かな」

「???」

 訳がわからなくて首を傾げる。

「これで痛いほど『自分を大切にしない愚かさ』を学んだよね」

「……学んだよ」

「じゃあ、いってらっしゃい。わたし達は見守ってるから」

 万寿さんは立ち止まり、こちらに手を振る。

 俺は一度手を振り、歩み出した。


 「祝福という名の呪い。人として暮らすなら呪いのような存在。それなのにデメリットも存在して、『あらゆる世界にランダムに飛ぶ』『決して英雄にはなれない』『自分のいる世界は分岐しない』。あまりにも可哀想。」

 万寿は彼を見送りため息をつく。

「それでも彼女達には人間らしく生きてほしいって、わたしたちは願ってるんだよ」

 

 

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終幕に咲く花と追憶の蝶 鉄井咲太 @Sakuta86

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