第11話 昭和二十八年十二月五日(3)

 写命館へと久しぶりに帰宅したのは日付が変わった頃でした。



 篝家で最後の晩餐を頂いた後に全員集合しての写真撮影。しばらく世間話等をしていたらこんな時間になってしまっていた。後部座席には土産の数々が山積みになっていて、二人で三往復してそのすべてを写命館へ運び入れた。



「けっきょく僕の方は何も手掛かりを見つけることが出来ませんでしたよ。善太郎さんはどうでした?」

「御屋敷を歩き回り彼等とも話をしたけど、これといってめぼしい証言は得られなかった。ですが、犯人が篝家に何かしらの思うところがあるというのは確定しましたから、まったく収穫がないというわけではありませんよね」

「篝家の人が殺されるまでに、いったいあと何人の人が犠牲になるのでしょうか」

「それは犯人にしかわからない。それはともかく四日間お疲れ様でした。叱るべきところもありましたが、賀楽さんに何事も無くて良かった」



 その口ぶりからは責めている気配もないが、今後二度と無いように、と忠告されているようで、素直にそれを心と頭に留めておくこととします。



「明日は五十嵐さんが話を聞きますから、店開きは明後日からになります。賀楽さんは五十嵐さんに話すことがないのでしたら、明日一日は自由に過ごして頂いて構いませんよ」

「特に話す事もないですけど、ご一緒させていただきたいのですけど」

「まあ、そこは賀楽さんに任せます」



 日付が変わっているというのに、これから現像作業をすると言って一階の作業場へと降りていった。僕はこの四日間を振り返りながら身体を休めようと自室の布団を被る。



 ヨレヨレの薄い掛け布団と硬い木造ベッド。年季の入った寝具に染みついているカビ臭さは、たった四日間感じていないだけでだいぶ懐かしく思えてしまった。



 温かく家族想いの篝家を貶めようとする犯人が秘める想いとは、なんて事件とは関わりもない僕はついそんなことを考え、できればあの家に災いが降りかかる前に警察にはなんとしても犯人を逮捕してもらいたいと願っている。

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