第28話

東北での生活と言うか仕事は、思いのほか長く続いた。

そして天逆海を封印してから数か月がたったころ、管理人が血相を変えて三谷の部屋にやって来た。

「あっ、新しい入居者が……」

取り乱している。

ただ事ではない様子だ。

三谷は聞いた。

「どうしたんですか?」

「どうしたもなにも、山本五郎左衛門(さんもとごろうざえもん)が来たんです」

山本五郎左衛門。

三谷はその名前を全く聞いたことがなかった。

気づけばいつの間にか明神がいて言った。

「山本五郎左衛門。あいつは妖怪の総大将だ」

妖怪の総大将? それならぬらりひょんと言う名が三谷の頭に浮かんできた。

「妖怪の総大将といえば、ぬらりひょんじゃないんですか」

明神が答える。

「ぬらりひょん。あいつが。そう言えば一部の人間の間では妖怪の総大将と言われているらしいが、とんでもない。あれは妖怪の中では雑魚中の雑魚だ。私はもちろんのこと、ここにいるろくろ首、河童、猫又、雪女、誰が戦っても一人で勝てる相手だぞ。もちろん子分なんかは一人もいないし、どの妖怪にもあがめられてない。むしろほとんどの妖怪から見下されているな」

「そうなんですか」

「あいつ、妖怪じゃあ最下層にいるくせに、人間の前ではやけに偉そうに余裕たっぷりな態度だから、勘違いした人がいるようだ。それで本当の妖怪の総大将は、今日ここにやって来た山本五郎左衛門だけだ。他にいない」

管理人が言った。

「あいつ、人間の名前を使わずに、山本五郎左衛門のままでここにやって来たんですよ。明神さんでも人間の名前を使っているのに」

山本五郎左衛門自体がそもそも人間の名前みたいだが、と三谷は思ったが、口には出さなかった。

その代わりに言った。

「山本五郎左衛門って、やばい奴ですか?」

明神が答えた。

「あいつが人間に危害を加えたという話は、全くないわけではないがほとんど聞かない。それでも一人で天逆海に負けないくらいの力を持ち、その上に多数の部下を従えている。むこうが本気なら、こちらに勝ち目はない」

「ええっ、そんなあ」

管理人が震えだした。

明神がそれを見て言った。

「とにかく今は様子を見ましょう」

三谷が言った。

「やっぱり九尾の狐と天逆海を封印したからじゃないですかね」

明神が答える。

「おそらくな。それを山本五郎左衛門が知らないはずがない。しかし九尾の狐も天逆海も、いわば一匹狼だ。山本五郎左衛門と交流があったとは思えない。しかし妖怪の総大将がわざわざ出向いてきているんだ。仲間の敵討ちではないにしろ、なんだかの目的があるはずだ」

「どうしましょ」

三谷が不安げに聞くと、明神は力強く言った。

「三谷さんには封印の玉がある。防御の術も今はある程度は使える。そう簡単にはやられはしまい。自信を持って。そして今から封印の玉を育てよう」

「わかりました」

不安は残るが、一旦解散となった。


その後しばらく経った頃には三谷は山本五郎左衛門の部下の妖怪を、数十体封印していた。

一体ずつしかむかってこない上に、たいして強くない妖怪を封印する玉なら、三谷が小一時間で作れるようになっていたからだ。

でも山本五郎左衛門との戦いはまだまだ続く。

なぜ一斉に襲ってこないのか。

山本五郎左衛門はいったい何を考えているのか。

多くが謎だらけだが、その話はまた後ほど。


       終

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妖怪荘に住む妖怪たちと俺 ツヨシ @kunkunkonkon

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