第27話

三谷以外が口々に三谷を讃えた。

そしてその日は、お祝いと称して宴会となった。


天逆海を封印してからすぐに、天逆海にさらわれていた河童二人が見つかった。

洞窟の奥に連れてこられ、天逆海の術で外に出られないようにされていたのだが、天逆海が封印されたので術が解けて、外に出てきたのだと言う。

話によると、天逆海に無理やり連れてこられたが、食べ物などその他の待遇はよかったようだ。

「食べられるかと思ったけど、俺たちに危害を加える気はなかったみたいですね」

二人は同じことを言った。

その数日後、行方不明になっていた女子中学生が、なんと東京で見つかった。

行方不明になったのは、どうやらただの家出だったそうだ。

持ち金もなくなり、路頭に迷っていたところを巡回中の警察官が見つけたそうだ。

家での理由は家庭内の問題のようだが、詳しいことは報道されなかった。

わかったことは女子中学生の行方不明と天逆海は、何の関係もなかったということだ。

単なる偶然が重なっただけ。

明神が言った。

「天逆海は中学生も食っていないし、河童もたださらって監禁しただけだ。そして封印の玉が大きくなっているのに、何もせずにそのまま封印されてしまった。三谷さんが封印の玉を育てていることは絶対に知っていたはずなのに」

三谷が言った。

「天逆海は最後に「これで、ようやく、やっと……」と言って消えました」

それ聞いて明神が言った。

「強者で悪役。そんな天逆海には、我々には計り知れない苦悩があったのかもしれないな。今となってはもうわからないが」

明神はそのまま部屋を出て行った。


天逆海を封印してから、少しの時が流れた。

三谷は明神の忠告に従って、陰陽師の術の修行にはげんだ。

明神が言った。

「九尾の狐と天逆海を封印した。間違いなく日本中の妖怪たちの間で有名になっていることだろう。そうなると次に何が起こるかわからない。しっかり力をつけておいた方がいいでしょう」

それで封印の玉を早く大きくし、なおかつ自身が倒れることがないような修行をしていた。

そして管理人が持っている知識と書籍から、防御の術を学び、それを今強化している。

防御の術と言うのは、一種の結界と言うかバリアーを、自分と自分が望む相手の周りに張り、敵からの攻撃を防ぐことだ。

習得すれば弱い妖怪の攻撃は全て跳ね返し、強い妖怪の攻撃もある程度は防いでくれるというものだ。

三谷は封印の玉の修行もそうだが、防御の術の修行にも力を入れていた。

なぜなら猫山のおなかが少し大きくなってきている。

そこには三谷と猫山の愛の結晶が育っているのだから。


その後も相変わらず三谷は修行にはげんでいた。

その他の住人も、特に変わりはない。

管理人と猫山と小野塚はほとんどアパートから出ず、半ば引きこもっている。

明神はたまに「用事がある」と言っていなくなり、亀田も「ちょっと仲間のところに行ってくる」と言って出かけるが、二人とも数日たてば帰ってくる。

そして猫山は明神に頼んで人間の戸籍を作ってもらった。

三谷と猫山は結婚届を出して、猫山みみは三谷みみとなり、結婚式などはまだ上げていないが、二人は晴れて夫婦となった。

結婚式はその後の様子を見てからやることになった。

それにしても妖怪に人間の戸籍を作るなど、いったい明神はどうやったのだろうか。

本人に聞いてみたが、笑うだけで答えなかった。

さすが神に近い存在だけのことはあると三谷は思い、明神に深く感謝をした。

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