落とし物

帆尊歩

第1話

今日ピアスを買った。

あまりに偶然に見つけることが出来た。

僕が買う義理はないんだけれど、何しろ偶然にも見つけてしまったのが不幸だった。

仕方なく、買うことにした。

「プレゼントですか」と言われる。

男の僕がピアス、イヤ今時は男でもピアスをするけれど、このデザインは確かに女性向けで、さらに二十代向け、プレゼントと言われても仕方がないが、三百円だぞ。

嫌みか。

一人暮らしの僕がなぜ二十代位の女の子がつけるようなピアスを買ったかと言えば、必要に迫られてだった。


一週間前の深夜、変な胸騒ぎがして目を覚ますとそこには、若い女の子が僕の顔をのぞき込んでした。

初めは夢だと思った。

ところが次の瞬間いなくなったかと思ったら、床に這いつくばった。

これはヤバいと思ったが、これは夢だと信じ込み布団を頭からかぶった。

今は冬で厚い布団を掛けていたので防御は完璧だ。

その日はそのまま寝てしまったが、次の日から毎晩現れるようになった。

いいかげん四日目くらいになると、慣れてしまい怖さがなくなってしまった。

すると、いくら若い女の幽霊といえ、安眠妨害となり、怖さではなくイライラが募る。

「あのー」

「はい」

「幽霊さんですよね」

「アッ起こしちゃいました?」

「そういうこと気にしてないですよね。かんべんしてくれませんか。明日、早いんですよ。何しているんですか人の部屋で」

「もとは私の部屋なんですが」不動産屋め。事故物件じゃないか。

「わたし、幽霊の幽子と申しまして、この部屋で、命を絶ったとき、ピアスをなくしまして」

「は?」

「こんなやつ」と言ったと思うと僕の頭にピアスの映像が浮かんだ。

なんか便利だな。

「知りませんよこんなの、片付けられたんじゃないですか」

「私も、ここにはないことは分かるんですが。幽霊会では。こういう場合見つかるまで探さないといけないんですよ。かつては、お菊さんという先輩がお皿が割れて、もうないのに、一枚、二枚と数えさせられたんですよ」

「ああ番町皿屋敷ね」

「同じ物で良いので、手に入れば・・・」幽霊の幽子は上目遣いで見てくる。

この幽霊、僕に調達させようとしているのか。

知るかと思ったが、毎日出られても困るし、大体デザイン指定のピアスなんてそう簡単にはと考えていたら、幽子が大声を出した。

「あっポップコーンだ」幽子はレンチンで出来るポップコーンの残りを見つけてハイテンションになっている。

「うるさい、何時だと思っているんだ」

「大丈夫です。私の声はあなたにしか聞こえませんから」

「ああ、そうなのね」

「で食べて良いですか」

「どうぞ」ところが悲しいかな幽霊なのでポップコーンが手をすり抜けて手に取れない。

「そんな悲しそうな目で見つめられてもどうにも出来ないから」

「はい」幽子は落ち込んでいたがどうにも出来ない。


そんなわけでピアスが手に入った。

その夜、午前二時に、幽子が現れた。

ピアスを見せると幽子は大喜びで僕にしか聞こえない声を上げた。

「これで成仏出来るの」僕は軽く聞いてみる。

「いえ、そうじゃなくて」

「これがないと成仏出来ないとかじゃないの」

「成仏とは関係ないんですが。本当に大事な物なんです」そう言いながら幽子が手に取ろうとすると、手からすり抜ける。

「どうしたらいい?」と僕

「ちょっと聞いてみます」

「誰に?」と聞き返したときにはなんか、バリバリに壊れた携帯らしき物で電話をかけ始めた。

そんなんでかかるのかと思ったら、なんか話をしている。

何度か頷き、最後に分かりましたと言った。

「なんか、命を絶つと良いそうです」

「ピアスに命はないよね」

「そうですね」

「ちょっとまって、その携帯はどこから持って来たの」

「ああこれは、壊れていたので、触れることが出来ました」

「壊れた?」僕はピアスを台所に持って行った。

「あの、ちょっと」と言って幽子がついてくる

僕はピアスをまな板におき包丁の柄でたたいた。

すると300円のピアスは簡単に粉砕した。

「触れるかな」

「やって見ますね」幽子が触るとピアスが元に形に戻り幽子の手に乗った。

「やった」と僕は思わず声になったが、幽子は大事そうに胸に抱くと一粒の涙をこぼした。

「ありがとう」と初めて幽霊らしいか細い声で言ったかと思うと。

段々に消えていった。

それから幽子は現れなくなったが、そんなに大事な物だったのか、確かに大事そうに胸に抱いたときは、よほどの物という感じだった。

今さら聞くことも出来ないけど。

その後ネットで検索したら、詳細は分からないけど、悲恋の自殺のような記事があった。

そういえば幽子はポップコーンが食べたかったのに食べられなかった。

ピアスとポップコーンに、何か大事な思い出でもあったのだろうか。


僕は何日かした雪の日、ポップコーンをもって外に出た。

そして雪の上にポップコーンを蒔いて。

ちょっとだけ足で踏みつけた。

その日は、僕に家の前は、雪じゃなくて、ポップコーンが降り積もった。

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落とし物 帆尊歩 @hosonayumu

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