番外編2 永久の愛を8/11

 私が企画した、自己満足とも言える結婚式。

 永遠の愛をみんなの前で誓いたかったってのもあるけど、咲羅の美しいドレス姿を目に焼きつけたかったんだよね。


 目の前の彼女は、私のイメージの遥か上をいく美しさ。

 陽の光を一身に浴びて女神のごとく美しく、華やかに輝く咲羅。


 法律では認められていない私たちの関係が、スタッフさんや味方――琴美さん、駿ちゃんたちに見守ってもらえるなんて。

 私は、私たちは世界で一番幸せ者だ。


「続きまして」

 やっとお互いに指輪をはめたのを確認した琴美さんが、しっかり自分の役割をこなしてくれる。


永久とわにパートナーとなったお二人に、誓いのキスを交わしていただきましょう」

「はい!?」

 ビックリして、勢いよく振り返った私の視界には、口角を上げて妖艶に微笑む琴美さん。

 やられたあ……。

 祝いの場に似つかわしくない、素っ頓狂な声を上げた私を許してください。ちゃんと理由があるんです。

 打ち合わせの段階で「みんなの前でキスをするのは恥ずかしいからパスで」ってお願いしたんですよ。琴美さんは「そうだよねえ」って言ってくれたんですよ。

 あ、待って。頷いてくれただけで「キスはなしで」に同意してくれたわけじゃないのか?

 えーマジか。マジですか。


 目を細めてじーっと小悪魔を見つめたけど、

「ふふっ」

 笑いながら首をコテン。

 いや、貴女もあざといポーズしないでもらっていいですか!? 一応、貴女も推しなんですよ。咲羅に向ける愛とは異なるベクトルで、好きなんですよ。

 そんなんされたら、文句言えないじゃないですかあ。


「樹里」

「はっ」

 愛しい人に小さく名前を呼ばれ、慌てて咲羅に視線を戻した瞬間、彼女の両手が私の頬に添えられた。

 驚く暇を与えられず、大好きな匂いと共に、唇に柔らかい感触。

 甘い痺れと香りがカラダ中を駆け巡って、動けなかった。


「よそ見しないで」

「あっ……」

 唇が離れていくのが寂しくて、思わず零れた声。

 多分、今の私はさぞかし間抜けな表情をみんなに晒していることでしょう。

 でも、どうだっていい。


 たった数cm先の彼女の表情は、見ているこっちの心がとろけてなくなってしまいそうなほど、幸せそうだから。瞳の奥にちょっぴり嫉妬の炎が見えるのも、愛おしさが増すスパイスに過ぎない。


 今まで2人きりのときも、ファンの前でもキスをしてきた。片手じゃ足りないくらい、何度も。

 だけど、今日以上に幸福で満ち溢れた咲羅を見たことがない。

 頬を薄っすら赤く染めて、目を細めて微笑む彼女。


 両手から伝わってくる温もりが熱に変わるのは、当然の流れ。

 恋人ですからね。

 その熱、いや愛の炎が身を焦がさんばかりに燃え上がろうとしてくる。


 あぁもう、我慢できない。


 私の頬からゆっくり手を離していく咲羅の両手を掴み、

「およっ」

 戸惑う声は私の唇が抑え込んだ。

 勢いつけ過ぎて、歯がごっつんこしちゃったのはご愛嬌ってことにしておいてください。


 今度は私の方から唇を離すと、目をまん丸にした咲羅が視界に広がった。

 えー可愛い。うちのさくちゃんが可愛い。こんな顔、滅多に見れないですよ。ウルトラスーパーレアですよ。

 参列者のみなさん、目に焼きつけといてね。


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