番外編2 永久の愛を7/11

 盛大な拍手に包まれなながら入場した私たち。

 円形のステージの手前で腕を離し、駿ちゃんとお母さんは左右に分かれてベンチに座った。


 私と咲羅がステージに上がって向かいあったのを確認して、琴美さんが

「これより咲羅ちゃん、樹里ちゃんの人前結婚式を行います。ご列席のみなさまには、2人の結婚の立会人となっていただきますよう、お願い申し上げます」

 いつもより明るいトーンで開式を告げてくれた。

 目の前の咲羅の口角はずっと上がっている。

 サプライズで結婚式を強行しちゃったけど、喜んでくれているようで良かった。

 って安心するのはまだ早い。


「本来であればお2人から結婚の誓いの言葉を述べていただくところですが、今回は咲羅ちゃんにはサプライズ結婚式、ということで、樹里ちゃん。誓いの言葉を」

 スタッフさんがスタンドマイクを置いて、事前に準備しておいた封筒を差し出してくれた。

 受け取りながら深呼吸をする。


 結婚式だから誓いの言葉のテンプレートなんて、検索すればいくらでも出てくる。だけど、私は、私らしく自分の言葉で愛を誓いたい。

 緊張で震える手で封筒から紙を取り出す。

 何度も何度も書き直した言葉。

 どうか、咲羅に、みんなに私の愛が伝わりますように。

 そう願いを込めて口を開く。


「私たちは小さいころからずっと一緒に過ごしてきました。辛いことも、悲しいことも乗り越えて、楽しいことも半分こにして生きてきました。これからも、変わらず支え合って生きていこうと思います」


 小さいころ、公園を走り回ったこと。離婚して泣いていた私を咲羅が慰めてくれたこと。

 アイドルになった彼女がどんどん傷まみれになっていくのを見ていることしかできなくて、悔しかったこと。

 泣き虫で弱虫な私に勇気をくれて、アイドルの道を示してくれたこと。

 Sorelleとして活動してきた日々のこと。

 沢山の思い出が頭の中を駆け回っていく。


「愛しい人が隣にいることが当たり前ではないことを忘れずに、一生をかけて愛を伝えていくことを、みなさまに誓います」


 泣くことなく無事に読み終えた手紙から視線を上げれば、私の代わりに一筋の涙が頬を伝う咲羅の姿。

 ここには書ききれなかったけど、ちゃんと私の想い、伝わったんだね。

 良かった。一生懸命考えて。


 涙で瞳が溺れそうになっていたら、スタッフさんが物凄い勢いで、低姿勢でやってきてマイクを回収して去っていった。

 忍者かよ。


「それでは、お2人に指輪の交換を行っていただきます」

 琴美さんが言い終わると同時に、一番前のベンチに、アカ姉さんの隣に座っていた翔ちゃんがリングピローを持ってきてくれた。


「え、指輪……いつの間に」

「にゃはっは」

 咲羅ったら、目をまん丸にしちゃって。可愛いなあ。

「今日のためにこっそり準備しました」

 咲羅のマネをして首を傾けたら、「ぐぬぬぬ」って変なうめき声を出されました。

 うぇーい。いつもハートを撃ち抜かれているお返しだい!


「樹里ちゃん」

 あっ、はい、すみません。一人で勝手に盛り上がってたら琴美さんから注意が入りました。

 気を取り直して、翔ちゃんから指輪を受け取り、まずは私が咲羅の左手薬指に。

「おぉ」

 しっかり聞こえてますよ。小声でも喜んでるのが伝わってきます。

「さくちゃん」

「んにゅ」

 眺めるのは後でいくらでもできるからさ、早く指輪。翔ちゃん立ちっぱなしだから。

「はい」

 声と共にゆっくりと薬指にはめられた指輪。

 太陽の光で反射して眩しい。

 うん、さっき心の中で注意したけど、見蕩れちゃうのわかるわあ……。













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