番外編2 サプライズ6/11

「樹里ママ。遅くなりましたが、娘さんを私にください」

「およよよよ」

 まさかここで「娘さんをください」発言。私とは一生縁がないセリフだと思っていましたが、たしかにそうですね。普通、結婚式の前に挨拶必要ですよね。

 ごめん咲羅。結婚式やりたい! って気持ちが先走りしたせいで、大事なことすっ飛んでました。


 初めて見る着物姿のお母さんは、なにかをこらえるように一瞬唇を嚙みしめて、

「私たちが離婚したとき、落ち込んだ樹里をずっと慰めてくれたのは咲羅ちゃんだったね。アイドルになる勇気をくれたのもそう。ずっと傍にいて、背中を押してくれてありがとう」

 いつの間にか、私よりもちょっぴり背が小さくなったお母さん。

 よく見れば目に涙を浮かべていた。


「この先どんなことがあるかわからない。沢山の壁にぶつかるかもしれない。だけど、貴女たちならきっと大丈夫ね」

 今にも零れ落ちそうになる涙をこらえながら口角を上げて、歪に笑いながら

「泣き虫で頑張り屋さんな樹里のこと、よろしくお願いします」

 ゆっくりと頭を下げた。


「お母さん……」

 どうしよう。式が始まる前に泣きそう。

 こみ上げてくる熱い想いを抑えていると、

「はい。必ず幸せにします」

 力強く、咲羅が言った。

 それがとても、とっても嬉しくて。思わず零れ落ちそうになる想いをこらえて上を向けば、雲一つない青空が広がっていた。


 今日のために集まってくれたみんなだけじゃなく、世間には後ろ指さされる私たちの関係が、神さまにも祝福されているような気がした。


 しまった。空を見上げたのは失敗だった。涙がこらえられそうにない。

 ずずっと鼻をすすった瞬間、左手を優しくとられた。

 誰、なんて顔を見ないでもわかる。

 咲羅だ。

 視線を天から逸らすと、彼女とバチっと音がしそうなくらいな勢いで目が合った。


「それじゃあ行こうか。樹里が泣いちゃう前に」

「なにそれ」

 本当のことだけどさ、

「さくちゃんだって泣きそうなくせに」

 貴女も鼻頭が赤くなってるのよ。泣きそうなのバレバレだっての。

「にゃははっ。テヘ」

 左手で頭をこつんと叩いた彼女。

 おうおうおうおう、あざといぞ。今日何回言えばいいんですか。お願いです。誰か咲羅を捕まえてください。

 あざとすぎてマジで死にそうです。


 左右に並んだベンチに座る列席者のみなさん。一番前のセンターには円形のステージと台。その斜め目に立つ司会の琴美さん。

 そして私たちの前には、鮮やかな花で彩られた可愛いアーチ。

 咲羅は駿ちゃんと腕を組んで、その後ろに私はお母さんと腕を組んで並んだ。


 チラリと私たちの姿を見た琴美さん。

 ニコッと笑って、

「お待たせしました。それでは、本日の主役の入場です。みなさん、盛大な拍手でお迎えください!」

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