番外編2 サプライズ5/11

「うわあぉ」

「どう?」

 その場で一回転する咲羅の視線を奪われる。

 回転に合わせてふわりと舞うハーフアップのプラチナブロンドに、輝きを添えるお揃いのティアラ。イヤリングは私のよりも控えめな大きさの宝石があしらわれている。

 うんうん。咲羅側のスタッフさんナイス。彼女はなんていうかな、存在が華やかだからさ、装飾品は豪華じゃなくていいのよ。

 解釈一致ですわ。最高ですわ。

「樹里?」

「はっ」

 すみません、脳内で一人勝手に会話してました。

「滅茶苦茶似合ってる。可愛い、最高、素敵、綺麗、ファビュラス、この世の言葉では表現しきれない。どうしよう」

「にゃははっ」

 どんなに着飾っても、笑顔だけはいつも通り。

 なんかちょっと安心。

 ドレスを身にまとったさくちゃんは、本物の女王様みたいで、手の届かない存在に感じられたから。


「樹里も最高に綺麗だよ」

「ありがとう」

 言葉は短くても、表情を見ればわかる。その瞳にはありったけの『愛おしい』っていう感情が込められていた。

 一歩踏み出して彼女の手を取った。

 お揃いの指輪とブレスレットをはめた右手。

 

 その瞬間喜びがこみ上げてきて、胸が苦しくなる。

 この1年間楽しいことばかりじゃなかった。でも、いつだって咲羅が傍にいてくれたから乗り越えられた。

 感謝してもしきれない。

 勝手にジワリと滲んでくる涙を堪えていたら、

「こんなことなら、ピアス開けておくんだったかなあ」

「ん?」

「イヤリングも素敵だけど、ピアスの方がいろんな種類があるでしょ。それに、イヤリングって落っこちそうで怖いんだよねえ」

「あーね」

 わかります、その気持ち。


 うんうん頷く私に、

「今度開けてくれる?」

「えぇ……」

 首をコテンと傾けて言われました。あざとい……じゃなくて、自分で開けたことさえないのに、いきなり誰よりも大切な人の耳に開けろと?

「無茶言うな」

「にゃははっ」

 笑ってますけど、これ絶対やらせる気だな? 目の奥が笑ってないのよ。

「はあ」

 病院で開けてもらった方が安心安全だって、咲羅もわかってるはず。それでも言ってくる。

「仕方ない。やってあげる」

「やっぴー」

 ため息まじりの私の声は、咲羅の楽しそうな声で上書きされました。


 おいおい「やっぴー」って。死語じゃない?


「おぉ、滅茶苦茶綺麗でやんすね。2人とも」

 馬鹿みたいに広い庭の片隅。既にベンチに座っている列席者には見えない位置で待っていた駿ちゃんと、私のお母さん。

 手を握って彼らの前に現れた私たちを見て、駿ちゃんは開口一番、まるで眩しいものを見るように目を細めて褒めてくれた。


「ありがとう」

 他の人だったら「いやいやいや」なんて言ってしまうけれど、彼の言葉はいつだって真っすぐだって知ってるから、素直にお礼を言った。

 咲羅は恥ずかしそうに「にゃは」って笑っていたけど。いや、また首を傾けないで。直視してなくても、あざとさに心臓が貫かれちゃってるのよ。

 私のライフはゼロよ。


 致命傷を負った私、嬉しそうな駿ちゃんと咲羅。対して、マイマザーは無言。

 え、なに。どうしたの。わーきゃーはしゃぐ人じゃないけどさ、着飾った娘を見て無言なのは怖いって。


 戸惑う私をよそに、咲羅が手を離して一歩踏み出し、お母さんの前に立った。

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